いい音 おすすめソフト

2019年4月11日 日本オーディオ協会が選んだおすすめソフト

聴きどころ

2作目はクナッパーツブッシュとウィーン・フィルがDECCAに残したワーグナーの4つのステレオ・セッション録音を全て収録したアルバム。キルステン・フラグスタート(ソプラノ)、ビルギット・ニルソン(ソプラノ)、ジョージ・ロンドン(バス・バリトン)との各録音と、ブルックナー交響曲5番のLPの4面収録用として録音された「楽劇《神々の黄昏》」からの2曲(「夜明けとジークフリートのラインへの旅」と「ジークフリートの葬送行進曲」)が収録されており、名歌手とウィーン・フィルによる演奏は素晴らしく聴きごたえのある作品となっているが、ここでハイライトしたいのは「ウィーン・ゾフィエンザール」での録音という点である。ゾフィエンザールはもともと音楽用のホールではなく、19世紀半ばに建設された温泉施設で、その巨大な空間を活用して舞踏会場にも使用されていたとのことである。その後1950年代に入りDECCAがウィーン・フィルハーモニーとの録音のために選んだ会場がこのゾフィエンザールであったということだが、天井の高い、自由度のある音響空間を生かし、録音会場として選んだものと思われる。録音はステレオ録音初期の1956年から行われ、このアルバムに収められているキルステン・フラグスタートとの演奏と楽劇《神々の黄昏》」から2曲はその1956年の録音である。キルステン・フラグスタートのソプラノは滑らかで美しく、楽劇《神々の黄昏》」から2曲はスケール感豊かに壮大に録られ、63年前の録音とは思えないほどフレッシュで高音質に再現されている。残念ながらゾフィエンザールは2001年に焼失したとのことであるが、ステレオ初期の時代にこのような素晴らしい音質の作品が録られていたということは、録音にとって音響空間がいかに重要であるかを再認識させるものである。ワーグナーファンのみならず多くのオーディオファイルの方々にもお勧めしたいアルバムである。

評:JAS