いい音 おすすめソフト

2015年12月18日 日本オーディオ協会が選んだおすすめソフト

聴きどころ

田部京子のトリトンレーベル第1弾となるアルバムはベートーベンの最後のピアノ・ソナタ3作品を収録。これら3曲は、暗く重厚なイメージがあったが、田部さんの繊細且つ透明感のあるピアノにすごく新鮮さを感じた。1曲目の30番の第3楽章では、まさに「歌うように、心の奥からの感情をこめて」と付記されているような演奏である。丁寧で、感情のこもったその演奏に心をうたれる。2曲目の31番は豊かな低音域を含むピアノの響きが素晴らしい。これは録音エンジニアの江崎氏の録音にもよると思うが、田部さんの力強さの中に繊細さのある演奏が、重厚なベートーベンの音楽を美しく響かせる。3曲の32番は、ゆったりとした重厚なテーマで始まる第1楽章は密度の高い演奏だが、第2楽章の田部さんの演奏は、何かほっとする希望と明るさをイメージさせ、寂しげなメロディーの中に心が癒される。録音は残響をたっぷり含む、自然な音場を再現し、田部さんの美しいピアノの響きを引き出す好録音。まずは田部さんの演奏があり、それを録音がサポートする、という音楽性豊かなアルバムである。

評:JAS