ミュージック・ペンクラブ音楽賞

第26回ミュージック・ペンクラブ音楽賞

クラシック部門

独奏・独唱部門

「山根 弥生子」
2013年7月発売の「山根弥生子 ベートーヴェンを弾くvol.3~バガテルとさまざまな小品~」(コジマ録音)により、日本人初のベートーヴェン全ピアノ独奏作品録音の偉業が達成された。1960年のデビュー以来、半世紀以上にもわたる国内外に及ぶ長年の演奏活動はもとより、ベートーヴェンの演奏録音では1997年の現役日本人女性ピアニスト初となるピアノ・ソナタ全集を発表以来、作品番号なしの作品までも網羅した単独での録音は世界的にも珍しく、既存の全集録音にはない未収録作品を複数含む希少性と共に、演奏のクオリティが極めて高いことも評価される。(齋藤弘美)

山根弥生子 ベートーヴェンを弾く
~変奏曲集~(ALCD-9049, 9050)
~変奏曲とロンド~(ALCD-9117, 9118)
~バガテルとさまざまな小品~(ALCD-9127, 9128)
現代音楽部門

「東京シンフォニエッタ」
1994年の創設以来、同団は国内外の同時代作曲家たちの創作活動に直接かかわった優れた演奏活動を手堅く展開してきた。東京での定期公演を継続するとともに、世界の主要な現代音楽祭への出演を続けている。これまでに140名以上もの現代作曲家の作品を取り上げ、また数多くの作曲家へ新曲を委嘱し、世界・日本初演を行ってきた。2013年にはそのうち彼らの代表的な世界初演曲を中心にした2点のCD『東京シンフォニエッタ・プレイズ西村朗』(カメラータ)をリリースし、現代音楽界への貢献度の高さを明示した。(石田一志)

東京シンフォニエッタ プレイズ 西村 朗 第1集/虹の体
【西村 朗 作品集 15】(CMCD-28282)

東京シンフォニエッタ プレイズ 西村 朗 第2集/天女散花
【西村 朗 作品集 16】(CMCD-28283)

ポピュラー部門

録音・録画作品賞(日本人アーティスト)

「HEAVENLY MUSIC/細野 晴臣」
ビクターエンタテインメント(VICL-64031)
フランク・シナトラが歌った「Something Stupid」やクラフトワークの「Radio Activity」、ボブ・ディランの曲に自作詞をつけるなど、自身の愛聴してきた多彩な楽曲を、豊かな知識に裏打ちされた柔軟な解釈で演奏。はっぴいえんどやイエロー・マジック・オーケストラなどの一員として、また作曲家として日本のロック、ポップスに多大な影響を与えてきた足跡とも重なり、自作曲も見事に溶け込む。スタンダードな楽曲の魅力、ポピュラー音楽の豊かさを改めて気付かせる。簡潔な曲解説にも細野らしさが滲み出て、楽しく視野を広げてくれる作品。(今井智子)
録音・録画作品賞(外国人アーティスト)

「ザ・ネクスト・デイ/デヴィッド・ボウイ」
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル(SICP-3788)
音楽に限らず、アートからファッションまで、いまだ多大な影響力を持つ鬼才も、66才になった。2004年、ツアー中に倒れ、それ以降引退説が囁かれたこともあったが、現役復帰を伝える10年ぶりの新作だ。全世界15カ国以上のチャートで一位に輝くなど、ロック史上最高のカムバックと評され、大歓迎された。70年代の傑作『ヒーロー』を持ち出し、自らを揶揄したかのような攻撃的なジャケットからしてそうだが、過去に縛られずに、未来に向けて鋭く問いつづける。デヴィッド・ボウイならではの緊張感が貫かれている。(天辰保文)

オーディオ部門

最優秀録音賞

「CANTUS/加藤訓子」(SACD、CD、配信)CDK432
Linn Records
パーカッショニスト加藤訓子が自ら編曲し、全パートを一人で演奏したリンレコーズ注目シリーズの第2弾。今回はアルヴォ・ペルトに焦点を合わせた意欲的なプログラムで、どの作品も静寂のなかでの階調の豊かさが際立ち、柔らかく溶け合う繊細な響きが美しい。演奏家がイメージした響きを忠実に音として形にした録音エンジニアの手腕も、もちろん見逃すことはできない。作品ごとに最適な録音会場を吟味し、その空間の響きを積極的に生かしていることも特筆に値する。スタジオマスターとSACD、音の純度の高さは甲乙つけがたい。(山之内正)