コラム ハイレゾ

ヘッドホンステレオ

今ではしっかり市民権を得て、オーディオ再生機器の中の一角を占めているのがヘッドホンステレオです。使う側の私的な体験から、ヘッドホンステレオについて考えます。皆さんにも似たような経験があると思いますが、ヘッドホンステレオで音楽を楽しみながら電車に乗っていると、見慣れた光景がまるで違って見えます。違って見えるだけでなく音楽の内容によっては見えているはずの光景がまるで目に入っておらず、つい聞き入ってしまい、電車を乗り過ごしてしまうこともあります。聞いている音楽も、自宅でスピーカーを通じて聞いた時の印象と大きく異なり、自宅では素晴らしくいい音楽だと感じていたものが、つまらなく感じたり、その逆のこともあります。当たり前のことですが、音楽に対する評価も結構、環境によって影響を受けるものだということが実感できます。
写真のイヤホンは、カナルワークス社のイヤモニターです。同社は、顧客の耳の型を取って完全なオーダーメードのイヤホンを作ってくれます。音楽への集中という点では、これ以上のものはないくらいの製品です。

かように良質なヘッドフォンは音楽ファンが求める空間を提供してくれますが、遮音性が高いがゆえに家の外では気をつけなければならないこともあります。後ろから接近する自動車の気配に気付かずに怖い思いをしたこともありました。それでは遮音性の低いものを使えば良いかというと、今度は音楽に集中できずに、結果として音量を上げて音漏れで周囲に迷惑をかけてしまうこともあります。何よりも音楽に夢中になっている間は、外界との接触を断っているわけですから、周りの人から見ると、極めて声をかけにくい状況になっています。
よくよく考えてみると(別に良く考えなくても)、屋外という本来であれば周囲に注意しなければならないような環境でも、周囲からの影響を排除して音楽を楽しむという矛盾があります。使う側が決めることだと言ってしまえばそれまでなのですが、普段あまり意識せずに使っているものだけに、考え出すと気になります。最近話題の歩きスマホにおいても、スマホが悪いわけではなくて、スマホに集中することで周囲への注意がおろそかになることが問題とされています。そう言えば、かなり以前の新聞の投書に、ヘッドホンステレオを使用している人には道を尋ねにくいというものがありました。

機器の性能は進化しても、このあたりの状況は変わっていないようです。

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