2025summer

個人会員に聞く!
第10回 山﨑雅弘氏

インタビュアー 末永信一(専務理事)

今回の「個人会員に聞く!」は、元パナソニックの音響設計者であり、現在は『楽音倶楽部(らくおんくらぶ)』を立ち上げられ、オリジナルのオーディオアクセサリー製品の開発を行うと共に、コンサルタントや講演活動などもされております山﨑雅弘さんにお話を伺ってまいりました。

パナソニックのご協力で、BDシアターをお借りして取材させていただきました。BDシアターとは、DIGAの開発用の試聴室であり、数々のモデルの画作り、音作りがここで行われ、まさに、山﨑さんの思い出が残る場所と言えるでしょう。

イントロ

末永)どうも、お久しぶりです。

山﨑)久しぶりです。

末永)今日はお忙しいところお時間を頂きまして、ありがとうございます。

山﨑)末永さんこそ、OTOTENが終わってお疲れのところ、大阪まで来ていただいて、ご苦労様です。

末永)いえいえ、とんでもないです。

山﨑)OTOTENはどうでしたか?

末永)今年は来場者数が2日間で8650人、39歳以下の来場が43%ということで。

山﨑)それは大したものです。だいぶオーディオ熱が盛り返してきましたね。

末永)ありがとうございます。

山﨑)オーディオ界隈が元気なものであって欲しいですから嬉しいです。

末永)はい、引き続き頑張りたいと思います。

山﨑)個人会員として、私も何か協力できることがあれば言ってください。

末永)そのお気持ちに感謝いたします。ありがとうございます。

山﨑)せっかくですから、最初にちょっとディスクを観てからお話ししましょうか。

末永)そうですね、ありがとうございます。じゃ、こちらの椅子に座らせていただきます。

山﨑)この椅子で私はずいぶんたくさんのコンテンツを観てきました。

末永)おー、そんな椅子に座らせていただけるなんて大変光栄な!ありがとうございます!

<DVDを鑑賞>


夏川りみ アニバーサリーアルバム「うた」
(ビクターエンタテインメント)

山﨑)私は昔から夏川りみさんが大好きでして、今日は今年6月発売のアルバム「うた」の初回限定版のライブDVDを観ていただきました。

末永)これはまた、結構なお手前で!

山﨑)(笑)

末永)ところで、収録された高野山・東京別院とは、日本オーディオ協会のすぐ近くにあるお寺さんですね。こんなに大きなお堂があるんですね。知らなかったなぁ。

山﨑)こちらのライブには行けなかったのですが、そうでしたか、それはまた何かご縁を感じますね。

末永)いや~、ビックリしました。でも、ほんといい声ですし、惹きつけられますね。ありがとうございました。

最近の活動について

末永)さて山﨑さんは、最近はどんな活動をされていますか?

山﨑)今も電磁波と音質の関係を研究しつつ、音質を改善するアクセサリーの開発と製造を行なっています。

末永)昨年、JASジャーナルにUSBアクセサリーのことを書いていただきましたね。
https://www.jas-audio.or.jp/journal_contents/journal202410_post19966
あれは、私が現役のエンジニアだった頃から意識していたもので、寄稿してもらって、その内容を知れたのは、嬉しかったです。

山﨑)そう言ってもらえると嬉しいですね。

末永)山﨑さんと原稿を詰めていて、いよいよ査読って段階になったら、協会職員の秋山くんが、「自分もこれは気に入っていて、いっぱい持ってますよ」とか言うんです。

山﨑)ええ、一番のユーザーかもしれません。

末永)らしいですね!だったら、お前さんが原稿の面倒見てくれたら良かったのに!とツッコんだんです(笑)

山﨑)そうでしたか(笑)。今の若い人たちは、ポータブルオーディオプレーヤーからヘッドホンで音楽を楽しんでおられる方も多いので、今回は、ヘッドホンジャックのアクセサリーのことを紹介させてもらえたらと思います。


Reference 35

末永)ヘッドホンジャックでも、同じようなことができるんですね…。

山﨑)原理は一緒です。バランス端子を持つポータブルプレーヤーをご利用されている方々はφ3.5mmのヘッドホン端子は空いてますよね。

末永)はい。

山﨑)そこにこれを差し込んでいただくのです。

末永)なるほど!そういうことでしたか。

山﨑)この抵抗とコンデンサーでまずノイズを除去しますが、これを電磁波吸収素材のパルシャットで巻いて更に高周波電磁ノイズを吸収しまして、また低インピーダンスの金属製ケースで仮想GND効果を増大します。

末永)確かに原理は一緒ですね。

山﨑)φ3.5mmのヘッドホンジャックの構想はずいぶん前からあったのですが、代理店のユキムさんの取扱製品の多くが据置型のオーディオであるため、楽音倶楽部の第1号プロジェクトとしてはRCA端子のノイズアブソ-バーになりました。

末永)ほおほお、それでヘッドホンジャックについては自らのブランドでやっておられるのですね。

山﨑)先日、ポタフェス大阪に出展しまして、たくさんのポータブルオーディオプレーヤーのユーザーさんに説明させてもらったのですが、大変関心を持って、その効果を確認していただきました。

末永)若い人たちは、高音質に対する感度が非常に高いですからね。

山﨑)はい、その熱を感じました。

これまでの仕事について

末永)山﨑さんは昔から高周波技術に明るかったのですか?

山﨑)音が好きだったので、松下電器産業に入社した時にステレオ事業部を希望しまして、最初に配属されたのは、チューナー設計室だったんです。

末永)ほお、チューナーですか!なるほど、それは高周波バリバリですね。

山﨑)高い周波数の信号の感覚はこの時に身についたと思います。

末永)私はアナログ、特に高周波回路は苦手な方だったので、デジタルが性に合っていたんですが、当時、デジタル回路はTTLで組んでいて、実験室の周りにいた先輩たちから、まあ新人だったので、周りは先輩だらけなんですが、お前の作る回路の不要輻射が激し過ぎて、妨害で検討が進まん!と怒られましてね。回路の設計をしている時間以上に、不要輻射対策をやらされていました(笑)

山﨑)ハハハ、それは面白い!

末永)いやー、シールドルームに3日くらい閉じ込められて、スペアナでですね、このラインよりも下になるまで出てくるな!と。

山﨑)なるほど、でも、それはいい経験をされたんじゃないですか?

末永)そうかもですね。今でも何次高調波が…という会話ができるのは、その頃の感覚が役に立っているのかもしれません。未だにコンデンサーの特性が頭に入りきっていないので、高周波は苦手です。

山﨑)いや、そういう経験をした人は、回路図や基板を見ただけで、どこにノイズがあるかが自然と分かるんですよ。

末永)確かに、そういう感覚的なものはありますね。「アースと熱」という当時バイブルと言われていた本を先輩から渡されて、黙々と勉強しましたね。ちっとも頭に入らなかったですが、せめてやってる格好見せないと怒られる昭和な時代の思い出です(笑)

山﨑)十分プロフェッショナルじゃないですか(笑)

末永)いえいえ、ダメダメくんでした。

山﨑)その後、10年くらいテクニクスでオーディオ回路の設計をしまして、単品コンポやシステムコンポの設計をやっておりました。時代がオーディオビジュアルの流れになってきた頃、レーザーディスクの設計に異動しました。それからDVDやBDを担当しました。

末永)あ、そうだったんですね。パナソニックとソニーの会社は違えど、山﨑さんと同様に私もレーザーディスク、DVD、BDとやってきましたので、大先輩ですね!

山﨑)そうなんですか。どうも最初にお会いした時から、通じるものがあると思っていました。

末永)私が山﨑さんの存在を意識したのは、何年前だったか覚えていないですが、雑誌「HiVi」に定年退職を迎える山﨑さんをフォーカスした記事がありまして。ちょうどその頃、パナソニックとソニーでBDレコーダーの一騎打ちをしている時期だったので、あっちにはこんなすごい人がいるのか!と感心して記事を読んだ記憶があります。

山﨑)2011年末ですね。

末永)山﨑さんは絶対に手を抜かない人という声もよく耳にしておりましたが、セットを見ますと、どんな人たちが作っているか分かります。真面目な方なんだろうなと思っておりました。

山﨑)DIGAプレミアムモデルの高音質取り組みで、HDMI周りの音質改善や、リ.マスター・真空管サウンド、それにUSBコンディショナー等が思い出に残っています。

末永)はい、どれもキーワードとしては覚えていますが、その中でも、やっぱりUSBコンディショナーはインパクトが大きかったかな。

山﨑)そうでしたか。

末永)ただただ、賢いなぁ!と思ったのと、確かに音が良くなるのですが、ノイズ対策のために、ここまでやるのか?!とパナソニックの方々の真面目さに驚きました。

山﨑)すぐにやろうと決断してくれた当時の上長に感謝です。

末永)それで、その後2020年に「楽音倶楽部」を起業されたんですね。

山﨑)音の知見や職人技を伝承していこうという取り組みを始めましたが、音の知見を後輩たちに伝えることで、改めて自分のやってきたことを整理することが出来ました。

音の知見や職人技を伝承

末永)今日は、その音の知見や職人技の伝承について深掘りさせていただきたいと思っています。

山﨑)30年ほど前にオーディオをライフワークにしようと決めました。音と向き合っているうちに、自分のオリジナルな音の聴き方というのが体得出来てきまして、音や音楽の楽しさを伝える仕事がしたくて、退職後に楽音倶楽部を起業しました。

末永)なるほど、その音の聴き方とは、どういうことになりますか?

山﨑)オーディオをライフワークにしようと覚悟を決めた時に、少しの音の差もしっかり分かるようになりましたし、音の聴き方も徐々に身に着いたように思います。

末永)私は、いい音とはどういう音か?を何気なく身に着けてしまったので、どうやったらいい音が判断できるようになるのかと相談されることも多いのですが、うまく説明できなくて困ってしまうのですよね。

山﨑)音って、見えるじゃないですか。

末永)はい、見えますね。確かにいい音ほど、イメージがよく見える気がします。

山﨑)そう、その音像のエンベロープが、スピーカーとスピーカーの間に、正三角形に音が見える時に、いい音場になっていると思います。三角形の高さは底辺の幅に相当するものでないとやっぱりだめで、この辺の感覚がピッタリの時に、エネルギーや波動を感じるんです。

末永)なるほど!正三角形でしたか。納得がいきますね。

山﨑)正三角形じゃないとダメなんです。この感覚を後輩たちと共有してきました。

末永)確かに、今聴かせてもらっているこの音は、正三角形に見えてきました!きっと、その評価に値する音楽とかあるんでしょうね。

山﨑)私の考えは、音は楽しいし、音楽も楽しい。音を良くするのも、また楽しい。オーディオとは自分自身の表現であって、音、音楽で元気になりますよね。生命の躍動感やエネルギーを感じられる音、波動の高い音を常に意識しています。

末永)今度から試聴する時には、その辺を意識してみます。

山﨑)音質設計が出来る技術者を育成するのは、STEAM教育に通じると思っています。2018年ごろに、孫の幼児の右脳教育について調べていく中で、中島さち子さんが推進されているSTEAMの考え方を知り、関連書物を読みました。

末永)中島さち子さんは、JASジャーナル協会創立70周年記念号において、小川会長とアスキーの小林久さんとで鼎談をしていただいたことがあります。
https://www.jas-audio.or.jp/journal_contents/journal202210_post17557

山﨑)小川さんに中島さんのことを話したことがありますね。それから興味を持たれたようで。

末永)STEAM教育はScience[科学]、Technology[技術]、Engineering[工学]、Arts[芸術]、Mathematics[数学]を統合的に考える教育手法ですね。

山﨑)オーディオやSTEAMで大事なのは、「なぜ?なんで?」という素朴な疑問から、子供のような好奇心を持って色々と実験をしていくことが基本です。幼児教育でもよく言われていることですね。

末永)子供のような好奇心が大事ですよね。

山﨑)はい、私がやってきた音質改善の取り組みは、この子供のような好奇心に始まっているように思います。

末永)確かに、山﨑さんとお話ししていると、なるほど素直にそういう疑問を持ったのか!と感心させられることが多いのですが、キーポイントは子供のような好奇心ですね。

山﨑)オーディオ協会の会長も勤められました中島平太郎さんが書かれた著作「次世代オーディオに挑む」(1998年発行)という本がありますが、その中で、「次世代オーディオとは、一言で言えば、いつでも、どこででも、誰でも、その時、その場で、最高の音をつくり、最高の音を聴くというものである。そういうオーディオを楽しむことが出来れば、これに勝るものはない。音楽を楽しむという点では、プロの演奏家も市井の人も変わることはなかろう。だからオーディオは、限られたプロや、一部のマニアの占有するものではない」と書かれています。

末永)深い言葉ですね。

山﨑)この中島平太郎さんの次世代オーディオへのビジョンは、中島さち子さんが推進されているSTEAMの考えに通じるものだと思います。

末永)あるべきことをズバッとおっしゃっていますね。

山﨑)子供って、制約だとか忖度なんてないので、素直じゃないですか。

末永)確かに。理想に向かってやるべきことがいっぱいありそうです。

オーディオとの出会いは?

末永)子供のような好奇心というお話になったところで、やっぱり山﨑さんは好奇心たっぷりのお子さんだったのか、またオーディオとの出会いについて伺っていきたいと思います。

山﨑)実家に手回し蓄音器とSPレコード、ソノシートなんかもありましたね。遊び感覚でSPレコードを手回しして音を出していました。

末永)私は大人になってからしか蓄音器を見たことがありませんが、すべて機械仕掛けの蓄音器って、スゴイですよね。

山﨑)2018年に手回し蓄音器でSPレコードを聴かせてもらうイベントがありまして、子供の頃の蓄音器体験を思い出しました。そのときは、同時に高級オーディオ機器でのLP再生もあったのですが、手回し蓄音器の音の素晴らしさに会場にいた数人と感激を共にしましたね。電気を使わないレコード再生ですが目から鱗!まさに音の感動体験でした。

末永)モノラルってこともありますが、SP盤の音楽の熱量は半端ないですよね。

山﨑)その後、パイオニアの家具調ステレオが家に来ました。親は音楽教育のつもりでクラシックのLPをたくさん買っていましたが、私が好きだったのは、テレビで流行っていた歌謡曲で、シングルレコードを自分で買ってきてよく聴いていました。

末永)その頃、どんな歌手が好きでしたか?

山﨑)これという特別な人が好きだったわけではないのですが、テレビで流れていた曲を聴いていました。タイガースとか美空ひばりとかですね。この頃から昭和歌謡が好きになりました。

末永)その後はどんな感じですか?

山﨑)高校時代に流行りだしたフォークソング、ニューミュージックに惹かれまして、こんな歌があるんだと驚きました。

末永)私も小椋佳の落ち着いた声が好きでした。井上陽水派でしたから、小椋佳の曲はそんなに詳しくはないのですが、ドラマの主題歌やCMソングなんかも多かった印象があります。

山﨑)そうでしたね。末永さんは井上陽水ですか。井上陽水もよく聴きましたね。

末永)オーディオを意識し始めた時期はいつ頃になりますか?

山﨑)大学に入りました頃、ちょうどオーディオがブームで、生協でもコンポを売っていたくらいですね。それで、自分で単品コンポを購入して聴きはじめました。ちょうどその頃に荒井由実がデビューしまして、すごく惹かれて早速LP「ひこうき雲」を買って下宿で何度も聴きました。あのレコードは最高傑作です!

末永)かなり音楽との密接な関わりが存在しますね!

山﨑)やっぱり聴いて楽しいことが重要です。すぐにコンポをグレードアップしたくなって、京都の寺町によくオーディオを買いに行きました。今はすっかり景色も変わりましたが、当時は小さな秋葉原みたいに電気屋さんが多い街だったんです。

末永)私も京都に住んでいたことがありますので、昔の寺町通の電気街にはよく行ってました。あまり混んでないので、ゆっくり見てられるのが良かったんですよね。なかでもニノミヤ無線は、穴場だったかな…。

山﨑)そうでしたか。ダイヤトーンの有名な「DS-251mkⅡ」やトリオのFMチューナーなんかを一式取り揃えました。好きなレコードは買って、あとはFMをエアチェックしてカセットデッキで聴いていました。

末永)当時の定番ですね!ちなみにカセットデッキはどちらの?

山﨑)ティアックの上からガチャンとテープを押し入れるタイプのモデルでしたね。

末永)やっぱりティアックでしたか。

山﨑)定番を追っかけていましたね。

末永)その頃から音を良くする工夫とかされていましたか?

山﨑)その当時はスペックはよく見ましたが、それ以上に工夫するということはまだなかったですね。

末永)音にこだわりを持つようになったのは、いつ頃からですか?

山﨑)DVDの頃にオーディオのプロとしての自覚が出てきまして、ブランドとしての音作りを進めてきました。

末永)あの頃、最後のひと工夫と言いますか、デジタルからアナログになったところのクオリティが商品価値を高めていましたね。まさに音作りなんかは、そこの努力というか。

山﨑)ソニーさんもいつもすごい商品を出されておられたじゃないですか。

末永)私がBDレコーダーをやっておりました頃ですが、パナソニックとソニーで一騎打ちの状態が数年に渡って続きまして、パナソニックからDMR-BZT9000というモデルが発売された際に、その音を聴いて鳥肌が立ったのを覚えています。

山﨑)私の定年退職の年のモデルですね。よく覚えています。ソニーさんと競っていたからこそ、やらせていただいたようなものですね。

末永)パナソニックさんが売り上げではもう十分に勝っているんだから、そんなに頑張らなくてもいいじゃないの…と思っていました(笑)

オーディオ協会への期待

末永)最後にオーディオ協会に対する期待なんかも伺いたいのですが。

山﨑)オーディオ文化の復活に共に取り組んでいければと思います。

末永)そうなんです、文化って、そう簡単に根付くものじゃなくて、どうやって関心をこちらに向けるかとか、様々な観点で悩んでいることがたくさんあります。

山﨑)音は楽しいし、音楽も楽しいです。良い音で聴ければもっと楽しい!

末永)さすが、おっしゃることがシンプルですね。

山﨑)この音の楽しさを共に発信していければと思っています。

末永)ありがとうございます。今日のお話も非常に勉強になりましたが、今後ともご指導いただければと思います。

山﨑)力んでやることでもないように思います。誰でも音を楽しんでハッピーになれる、それを導くオーディオ協会を目指していただければと思います。

末永)ところで、今から20年くらい前に、山﨑さんが参加された座談会の様子がJASジャーナルに残っておりまして、ずいぶん時代も変わりましたが、今更ながらこの時のことをちょっとお聞きしたいのですが。


JASジャーナル 2004年1月号より

山﨑)次世代オーディオが発進した頃で、DVDオーディオやSACDの話が懐かしいです。今ではハイレゾもストリーミングで聴けるような時代になりましたね。

末永)かなり高音質が市民化されてきたってところでしょうか。でも一方で、その当時から、若年層のオーディオ離れということを語られていまして、感動できる音楽があること自体を知らない世代があることを実感しています、とおっしゃっています。

山﨑)あの頃はMP3で音楽を聴くことが増えてきていた時代で、ミニコンポでも次世代オーディオが再生できれば、こんな音が出るんだと感動させられるのに、と思っていましたね。

末永)今で言うガラケーで着うたが流行った時代だったと思います。章のタイトルにも、「携帯世代を取り込むには」などという表記がありまして、今でも同じようなことが言われているので、全然変わっていないじゃんという話ですが、この座談会の中で、山﨑さんは「小さいスピーカーでもこれだけ楽しめますよという提案が大事ですね」とおっしゃっています。私も、そういう軽く一歩を踏み出すことが大事なんじゃないかと思うんですよね。

山﨑)一部のマニアだけのオーディオではなく、誰もが良い音に触れて、音のすごい力に感動したり、感情を安定させたりして欲しいですね。

末永)OTOTENは今、若い人たちにその音の魅力を分かってもらいたいと力を入れています。

山﨑)小川さんと末永さんがそこに力を入れて頑張っておられることは、まさにオーディオの市民化につながると思います。

末永)ありがとうございます。

山﨑)座談会の最後のほうで、ソニーの安藤治子さんが良いことを言われていて、「オーディオは右脳を活性化するツール」という表現をされています。非常に的を得ていると思いますね。

末永)感情を豊かにすることこそ、文化を育むことになりますね。

山﨑)座談会から20年以上の時間が経ちましたが、今もオーディオの本質は同じだと思います。いい音いい音楽で世の中の人がハッピーになっていったらいいと今でも思います。

末永)今日はありがとうございました。

山﨑)こちらこそ、ありがとうございました。

個人会員プロフィール

山﨑雅弘(やまさき まさひろ)
1977年、松下電器産業株式会社入社。以降、一貫してテクニクスブランドを含むオーディオ機器の電気回路設計、LD/DVD/BDディスクプレーヤーの音声回路設計に従事。回路技術、低ノイズ化などのアイデアで高音質化を推進。
2019年に退職し、2020年に「楽音(らくおん)倶楽部」を起業。低ノイズ化を基本とする高音質化の研究を継続し、オリジナルオーディオアクセサリー製品の開発・製造等を行う。
https://www.rakuon-club.com/

筆者プロフィール

末永信一(すえなが しんいち)
1960年、福岡市生まれ
2019年、ソニー株式会社退社
2020年6月より、日本オーディオ協会専務理事に就任