2025summer

OTOTEN2025開催報告

日本オーディオ協会 事務局 八木真人

はじめに

6/21、22に東京国際フォーラムガラス棟・D棟にて、「OTOTEN2025」を開催いたしました。2022年にOTOTENを再開して以降、毎年来場者数を増やし、今年の来場者数は8,650人(前年比140%)であり、全ての世代で前年の来場者数を上回っておりますが、特に40歳未満の若い世代の来場者数が3,378人と大きく増え、来場者の構成比の43%となりました。

OTOTEN当日は真夏の陽気となり、会場の東京国際フォーラム内も非常に暑く、出展社、来場者の方々の体調が心配でしたが、陽気に負けないほどの熱気に満ち溢れ、「かつてのオーディオフェアのような雰囲気だ」というお声も頂きました。ベテランも若い方々も数多くの出展社の提案するオーディオや音に興味深く聴き入り、説明員と熱心に会話をし、友人と楽しそうに会場を巡り歩く姿で溢れ、楽しさに包まれた2日間となりました。当協会が目指すオーディオイベントの一つの形になったのではないかと思います。今回のイベントが成功裏に終わりましたこと、出展企業の皆様、関係者の皆様、そして来場された皆様に深く感謝申し上げる次第です。ありがとうございました。


常に賑やかだった OTOTEN2025

OTOTENを誰でも楽しめるイベントに!

オーディオ・音楽を楽しむ方はたくさんいらっしゃるのだから、OTOTENは誰でも楽しんでいただけるイベントにしていきたいといつも協会のメンバーと話してきました。もちろん各社が紹介する新製品などを試聴することが多くの方の主な目的になりますが、会場の雰囲気が良く、初めて来場された方や、オーディオにあまり詳しくない方でも気軽に良い音の素晴らしさを体験してもらえる、そんな場であって欲しいと常々思っていました。

会場の雰囲気は重要です。今年もキービジュアルをふんだんに用いた明るい装飾を施し、通路には出展社のご協力でたくさんのバナーで飾り付けるなど、お祭り感を演出いたしました。今年は、ゆるキャラまで登場し、お子様連れの来場者にも大人気でした。また、スタンプラリーをしながら会場内を周遊していただく、あるいは協会主催のイベントを随所で行うなど、音のテーマパークのような雰囲気を演出いたしました。その甲斐もあってか、来場された方々のSNSに、「楽しかった」「初めてだったけど気軽に楽しめた」という反応をたくさん見ることができました。当協会は、オーディオファンはもちろんのこと、オーディオに多少なりとも関心がある方々が気兼ねなく、オーディオに触れる機会を作ることを毎年目指しており、これらの施策が十分に活かされたと考えています。

また、OTOTENは、音楽の聴き方が多様化する時代背景に合わせ、ホームオーディオのみならず、ポータブルオーディオやカーオーディオなど、カテゴリを超えてオーディオの楽しさを一斉に体感できる多角的総合オーディオイベントを目指しています。製品に加えて、技術提案やソリューションの出展もあり、「音」の持つ可能性を広く知っていただくこともできました。

そして、オーディオは音楽を楽しむもの、OTOTENはコンテンツとの連携を意識し、様々な楽しみ方を体感していただけるのが特長です。この様な様々な工夫を年々継続して、誰でも楽しんでいただけるイベントにしております。以下に、施してきた工夫について、詳細に紹介してまいります。

開催前からワクワクを!ネットで盛り上がり、リアルで仲間と楽しむ

OTOTEN2025を企画していく際に、若い世代を中心に「いかにしてワクワク感を持ってもらうか?」ということを徹底的に検討しました。そして、OTOTENというイベントのワクワク感は、「普段体験できない“音”をリアルで体験しもらう」、「新しい世界を知ってもらう」というキーワードに辿り着いたのですが、当日をより楽しんでもらうためには、OTOTEN開催前からワクワクしてもらうことが必要だと考えました。

その大きな施策として昨年に引き続き、人気VTuber のAZKiさんにアンバサダーに就任していただき、OTOTENやオーディオの楽しさをアピールしてもうらことにしました。開拓者(AZKiさんファンの呼称)の間では、「今年もAZKiさんがOTOTENとコラボするのではないか??」とすでに噂されていましたが、すぐに答えを出すのではなく、AZKiさんのアンバサダー発表は、事前にAZKiさんがコラボをすると匂わせるSNS投稿をしたり、AZKiさんとわかるシルエットを用いたりして、徐々に期待感を高めていく試みを行いました。

また今年は開拓者の方々に加えて、ホロリス(AZKiさんが所属するVTuber事務所ホロライブのアーティストを愛聴するリスナーを指す)の皆さんに向けてもOTOTEN情報を発信しました。ホロリスにも関係する特設ブースで再生する楽曲を予想してもらったり、特設ブースの装飾について相談をしたりするなど、SNS上のファンに問いかけることで、開拓者やホロリスの皆さんが様々な会話をしてくれました。

中盤には、AZKiさんのステッカーやアクリルスタンドプレゼントを準備し、OTOTEN当日までを小学生の遠足の前日のように、楽しみに待っていただく施策も実施いたしました。OTOTEN開催前からOTOTEN当日まで、皆でOTOTENを盛り上げてもらい、一緒にワクワク感を最大限にすべく、SNSを活用したコミュニケーションを行いました。

昨年はAZKiさんにライブ配信でOTOTENの紹介やオーディオの楽しさを語っていただき、会場ではヘッドホンでAZKiさんの楽曲を聴いていただきましたが、今年はどういう形で開拓者やホロリスの方々に「普段体験できない“音”をリアルで体験しもらう」か?OTOTENやオーディオの楽しさをワクワクしながら過ごしてもらうか?ということも熟考しました。

今年は、これまでOTOTENを知らなかった、「音楽を聴くことは好きだけどオーディオにはあまり関心がない」といった方々にOTOTENの内容を分かりやすく伝え、興味を持ってもらえるように、WEB CMや特設サイトを作成しました。そして、推しの曲を本格的なスピーカーで聴いて、コンテンツの楽しさを体験してもらいたい!という考えから、当協会のオーディオ体感ワーキンググループの活動に参加されています、トライオード、ラックスマンの両社に協力を仰ぎ、試聴環境を準備していただきました。2日間で1,400人近くの方がAZKiさん特設ブースでホロライブ楽曲を楽しんでいただきました。限られた時間と空間でなるべく多くの方が体験できるように、また事故を防ぐため、整理券制を採用しましたが、開拓者の皆さんは、暑い中、ちゃんと整列して整理券を求められ、スタッフの誘導にもきちんと従っていただき、そのマナーの良さは本当に感心いたしました。


AZKi 特設ブースの整理券を求める列

AZKiさんをきっかけにOTOTENに来ていただいた開拓者の皆さんは、SNSでつながっていても、待ち合わせしたりするわけではなく、むしろ偶然会えることに楽しさを覚えるようです。OTOTENをエンカる(encountする、普段会えない人にイベントなどで偶然会うこと)場として集い、試聴ブースで普段聴いたことのない良い音で推しの音を体験し、AZKiさんへメッセージを寄せ書きし、グッズの写真を取ってOTOTENに来れなかった人へ情報をシェアする。そして、その共通体験を会場で分かち合い、仲間意識が高まった者同士で、様々な出展ブースに足を運び、“自分の好きな音を探す”という楽しみ方をされていました。中にはオフ会もひらいていた方々もいらしたようです。

このような開拓者やホロリスの皆さんがOTOTENやオーディオに興味を持ってくれたことにAZKiさんも心を動かされたようで、OTOTEN初日の閉場後にAZKiさんが会場にお越しになるというサプライズがありました。AZKiさんご本人も、特設ブースで皆さんが体験されたことと同じように、オーディオ機器の試聴をされたり、一部の出展社ブースを楽しまれ、またメッセージボードに大変感動されて、ご本人もメッセージを残していたり、パネルにサインまでしていただきました。AZKiさんのOTOTEN訪問の感想は、「AZKi Channel」(【雑談/FreeTalk】月曜日がつらい?我慢でい!週末の振り返り!【ホロライブ / AZKi】)でたっぷりと語られていますので、ぜひご視聴ください。

先ほど、OTOTEN開催前からOTOTEN当日まで皆でSNSが盛り上がっていたと書きましたが、実はOTOTENが終わった後も、楽しかった思い出を語り合ったり、OTOTENをきっかけにして購入したものを紹介しあったりと、SNSでOTOTENを話題にした会話が続いています。開拓者やホロリスの皆様には、ぜひ来年もOTOTENで自分の好きな音やオーディオを探しに来ていただけると嬉しい限りです。

気軽に立ち寄れるオープンな空間づくり

多くのオーディオイベントでは、音に集中するために個室のドアを閉め切ることが多いのですが、オーディオ初心者やイベントに初めて来られた方にとっては、閉じられたドアを開けることに大きな抵抗があるものです。今年も、個室ブースの出展社にはドアの開放をお願いし、初めての方でも気軽に各ブースの中に立ち寄っていただける取組を実施いたしました。加えて今年は、ガラス棟4Fの大部屋(G402)の中にオープンタイプの小ブースを並べ、気軽に見て回れるスペースを増やしました。特徴ある出展社が揃ったこちらのブースは、開放的な雰囲気もあり、常に人で賑わっておりました。

今年はポータブルオーディオにも注力し、会場で最も大きなホールD5には、若い世代に人気のイヤホン・ヘッドホンなどの出展社12社に、テーブルでの出展をしていただきました。こちらも常に人で賑わっておりました。

コンテンツとの調和

オーディオとは「自分の好きな音楽を良い音で楽しむ」ことです。コンテンツがあってこそのオーディオ。今年のOTOTENは、オーディオとコンテンツとの調和についても取り組みました。前述したAZKiさんや恒例のリクエスト大会に加え、G701の協会イベントでは、1日目の午前中に、今年から始まったMusic Award Japanの実行委員長・野村達矢氏、副委員長・稲葉豊氏らをお迎えして、「世界とつながり、音楽の未来を灯す」をコンセプトに設立されたアワードの意義や授賞式の反響、そして未来に向けた展望について語っていただきました。アワード受賞曲の披露もされ、高級オーディオで聴く味わい深さに、改めてコンテンツとハードの両輪の大切さを感じられる時間となりました。また、2日目の午前中には、ゲーム音楽作曲家・プロデューサーである古代雄三氏にご登壇いただき、ご自身のオーディオ歴、80年代のアーケードゲーム音楽から受けた影響、ゲームセンターでの原体験から作曲家としての歩みを音源の試聴も交えて語られました。こちらもコンテンツの披露が行われたと同時に、これが現在のボーカロイドなどの打ち込み系音楽の原型となっていることを知る貴重な機会ともなり、最後まで満員御礼と大変盛り上がりました。

「音」の可能性を提案する出展

新しい「音」の体験は、OTOTENの前身である全日本オーディオフェアの始まりからの特徴ですが、今年の特徴的な出展社をいくつかご紹介いたします。まず、南房総市と千葉工業大学の産官学連携としての出展です。地方自治体がなぜオーディオのイベントに?と不思議に思われたかも知れませんが、南房総市の海や山といった自然豊かな地域の音を8chキューブ立体音響で体験していただき、その素晴らしい音を観光資源とする活動の紹介であり、今後の日本各地の地方創生の大きな可能性が感じられました。こちらは、別記事でも詳しく紹介しておりますのでご覧ください。

オンキヨーは、スピーカー技術を応用した加振器を用いて、味わいを良くしたお酒とその技術を展示していました。これまたオーディオのイベントなぜお酒?と思われたかも知れませんが、音がもたらす多様な可能性をご体験いただけたかと思います。

また、今年は日本でラジオ放送が開始されてから100年という節目の年です。AZKiさん特設ブースの隣には、「放送開始100年記念展示」を行いました。こちらにはNHK放送博物館のご協力により、放送開始当時のラジオやマイク、モニタースピーカーの展示を行いました。また、日本コロムビアのご協力により、PCMレコーダー1号機による当時の録音の再生デモが行われた他、歴史を振りかえるだけでなく、NHK放送技術研究所による未来の放送の動向についての展示も行われ、JASジャーナル2025年春号の放送開始100年記念号と連動する企画として、記事の中にあった歴史遺産を展示しました。

その他の多種多様な出展

海外のオーディオメーカーが日本に自社製品を紹介する場として、OTOTENがその架け橋となる取組みも進めております。今年は台湾から新たに2社の新規出展がありました。当協会は台北国際音響大展へ、ここ2年ほど友好親善の輪を広げる目的で視察に行っております。オーディオの世界に国境はなく、この展示会でユニークな提案をしていた企業に、ぜひOTOTENでもその技術をアピールして欲しいと出展を要望しました。また、当協会の海外企業会員にも参加してもらい、彼らのユニークな取り組みを提案していただいています。OTOTENは今後もグローバル化を進めてまいります。

他にも、地方企業、聴覚訓練アプリ、ソリューション提案など、まさに音の祭典と呼べるにふさわしい、多種多様な出展社が集いました。

カーオーディオは、ヤマハと共同開発したカーオーディオ搭載のアウトランダーを出展した三菱自動車、日本初公開のDTS:X対応のメルセデスベンツを出品したXperiをはじめ、話題に満ちた展示となりました。

ホームシアター関連も、開発中のサウンドバーを出品したヤマハミュージックジャパンをはじめ、イマーシブオーディオを体験できるブースは、どこも常にたくさんの来場者が集まっていました。

OTOTEN2026、2027に向けて

冒頭に述べましたように、今年のOTOTENの来場者数は前年比140%増の8,650人となり、2年前から2倍の来場者数になりました。全世代で前年の来場者数を上回りましたが、特に40歳未満の若い世代の来場者数の伸びが大きく、来場者数の43%を占める結果となりました。


OTOTEN来場者数(2023年~2025年)


世代別OTOTEN来場者数(2023年~2025年)

OTOTENをグローバルレベルのオーディオイベントに成長させていくためには、世代や性別などあらゆる垣根を外し、多様性に対応できるイベントにしていく必要があります。全世代、特に若い世代の方の来場が増えたことによって、ストリーミング環境でどう良い音を楽しむかという提案は必要なところとなりますが、昨今人気のレコードや根強いファンがいるCDなどのフィジカルメディアをいかに良い音で楽しむかという提案も、まだまだ重要となります。


よく聴く音楽メディア(OTOTEN2025来場者アンケートより)

また、今年OTOTENに初めて来場された方も多く、この方々にまた来ていただけるような仕掛けが重要です。初来場された方からは、「普段体験できないオーディオ体験ができて良かった」、「とても面白かった、また来たい」という意見を多数頂戴しましたが、一方で、まだまだ敷居の高さを感じておられる方もいらっしゃるようです。将来のオーディオファンを創出することは業界の発展のために必要不可欠な課題であり、そのためにも、OTOTEN初心者に分かりやすいイベントの紹介や会場での案内方法など、ユーザーエクスペリエンスも、これまで以上に改善していく必要があると考えています。さらに、自分の音を追究されたい従来からのオーディオファンの満足度も下げる訳にはいきません。初心者だけでなく、ベテランのオーディオファンも楽しめるバランスがとれたイベントにしていかねばなりません。

コンテンツとの共調も大切なテーマです。オーディオの基本は「好きなコンテンツを良い音で聴く」こと。それによって、人生がもっと豊かになることを実感していただくためにも、コンテンツホルダーの協力は必要不可欠であり、今後の重要な課題だと考えています。

日本オーディオ協会は2027年に創立75周年を迎えます。そこに向けて、あるいはその先に向けて、OTOTENがさらに魅力的なイベントとなるよう、出展社の皆様、協会会員の皆様と共に進めてまいります。引き続きご理解、ご協力をよろしくお願いいたします。