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JASジャーナル目次
2026summer
「デザイン」と「音響」の追求
~トレードオフを超えた薄型テレビの音響開発~
シャープ株式会社 TVシステム事業本部
Entertainment事業部 第二開発部 尾島由浩

概要
テレビにおける薄型でスタイリッシュなデザインと、高画質・高音質の両立。当社はこれらを追求し、さらにはリビングオーディオを置き換え可能な存在へと高めるべく開発に挑んできました。本稿では、薄型テレビにおける音の変遷を交えながら、これまでの開発経緯と進化の過程、そして現在の到達技術をご紹介します。
1‐1. はじめに
一般家庭から大型のオーディオ装置が消えて久しく、現在の音楽の楽しみ方といえば、ヘッドホンやイヤホンなどが主流になっています。しかし、このリスニングスタイルでは、身体全体で音を体感できないため、どうしても生音のリアル体験とは言い難いものです。
一方で、一般的なテレビの音のイメージといえば、音抜けが悪く「モゴモゴ」こもっている、明瞭度が足りず人の声すらハッキリ聴こえにくい、そもそもの再生帯域が狭すぎて低音・高音の再現性が乏しく充分な迫力や臨場感を感じにくい、物足りなさを感じる、などといったイメージをお持ちの方も多いのではないかと思います。
当然、音に特化できるオーディオ製品とテレビでは製品仕様自体が根本的に異なり、音作りの志向も異なるところが多いのですが、上記のようなテレビの音質イメージを払拭し、少しでもオーディオ製品的なレベルを兼ね備えたテレビが実現できれば、テレビ一台だけで気軽に生音も楽しむことができ、利用者にとってもメリットが多いのではないかと常々考えています。
次項では、当社テレビの音づくりのコンセプトについて、ご説明いたします。
1‐2. 当社テレビの音づくりのコンセプト
テレビ放送では、ニュース・バラエティー番組などがメインソースであり、最も多く登場する音源ソースは「人の声」です。そのため、テレビでは「人の声の聞きとりやすさ」を最重視して音作りを行います。ユースケースとして長時間視聴する場合においても、できるだけ聴き疲れしにくい音作りを目指しています。
さらに、それぞれの製品が持てる性能範囲内にて、できるだけ広帯域再生(低域~高域まで)を目指します。製品グレードによって音質性能に差が出ますが、高級グレードモデルでは、画面の迫力に似合う品位の音が出せるよう様々な取り組みを行っています。
上記の「音作りコンセプト」に基づき、普段の番組視聴(ニュース・バラエティ・ドキュメンタリーなど)のみならず、映画・音楽番組など大迫力が要求されるコンテンツの鑑賞にも対応できるように品位を追求しています。
1‐3.薄型テレビという商品における音の変遷
オーディオ製品(特にスピーカー製品)においては基本的に音質最優先で製品設計される一方、テレビの音響システムでは、音質やコストと同時に薄型でスタイリッシュなデザイン性も要求されます。
20年程前の薄型大画面テレビは製品価格がとても高価であったこともあり、デザイン構造やスピーカー部にもコストが掛けられ、大型のスピーカーを搭載し、スピーカー部をしっかりと見せるデザイン構造の製品が多数を占めていました。例えば、当社の2005年/2006年モデルでは、テレビとは別筐体の大型外付けスピーカーボックスを搭載して、テレビ単体で高音質を実現していました。アンダースピーカーモデルだけでなく、今では珍しいサイドスピーカーモデルも製品化し、ステレオの再現力のみならず、画音一致性を高め没入感が高い音響性能を兼ね備えていました。
(2005年モデルの例:<LC-57GE2>サイドスピーカーモデルとして、別筐体の大型スピーカーボックスを画面両脇に搭載)
(2006年モデルの例:<LC-52GX1W>アンダースピーカーモデルとして、別筐体の大型スピーカーボックスを画面下部に搭載)
その後、薄型テレビの普及に伴い低価格化が進み、搭載されるスピーカーは内蔵型・小型化が進行しました。サイドスピーカーモデルは音質強化型製品の位置づけとなり、アンダースピーカーモデルが製品のメイン形態となりました。そして、スピーカー部の開口幅はより狭いデザイン性が要求されていきました。
この要求に対応すべく内蔵スピーカーもスリム小型化を余儀なくされ、スピーカー自体の性能ダウンが否めなく、特に低音再生能力が著しく低下していきました。デザイン構造的にもスピーカー開口幅がどんどん狭くなっていき、音抜けの悪化や広がりの低下などが否めませんでした。
また、グローバル共通設計化が進み、テレビデザインの潮流が変わると、画面の狭額縁化・テレビセットの更なる薄型化とともに、スピーカーはテレビ正面からは全く見えない構造の製品が大多数を占めるに至りました。スピーカーは下向き・後ろ向きなど、正面を向かない配置となりました(ヒドゥン・スピーカーシステム/インビジブル・スピーカーシステムなどと呼ばれていました)。
いくら音声回路技術やスピーカー技術の進歩があったとしても、最終的に音が下向きや後ろ向きに発せられるため、スピーカーからの音が視聴者に直接届きにくく、さらに聴こえづらい状況となってしまいました。テレビならではの設計制約から、音響性能の確保が課題となりました。
(2013年モデルの例:画面アンダー部に狭開口部を正面向きに設けたテレビ。内蔵スピーカーはテレビ筐体下部に正面向きに配置)
(2016年モデルの例:正面にはスピーカー開口部が存在しないテレビ。内蔵スピーカーはテレビ筐体下部に下向きに配置)
少し話は逸れますが、ちょうどこの頃から、テレビの音質劣化を補うべく「サウンドバー」という別カテゴリーの製品が日本でも普及し始めました。テレビの前にサウンドバーを設置し、テレビの音をサウンドバーで聴くというスタイルです。グローバル市場ではヒドゥン・スピーカーシステムのテレビが主流であり、テレビの音質を補うべく、テレビとセットで販売される傾向にありました。しかし、お客様にとってはわざわざ別にサウンドバーを購入して設置・設定し、テレビだけではなくサウンドバーも操作しながらテレビを視聴するのは、一定の手間が発生します。
当社では、ここまでの薄型テレビの変遷を踏まえ、サウンドバーを設置しなくてもテレビ単体で便利に音響を楽しめるように、そしてより高品位にするにはどうすればよいか、音質部門・デザイン部門・機構部門・企画部門などが一丸となって、テレビの音の品位を取り戻す取り組みを始めました。そうして、最新モデルにもつながる「スリムデザインと高音質を両立する音響システム」を開発し、進化を遂げてきました。
ここからは、その開発経緯のご紹介に移ります。
2‐1. スリムデザインと高音質を両立する音響システムの誕生
まず取り組んだのは、スピーカー開口部に存在するスピーカーネットの影響を取り除くことでした。
さて、一般的なスピーカーネットの実際の開口率はどの程度でしょうか。開口率とは、単位面積当たり障害物が全く存在しない面積比率のことであり、その値が大きければ大きいほど音抜けが良くなります。一般に高開口と謳われる金属製ネットでも、その開口率は40%~50%程度です。樹脂製ネット(シート)においては開口率が20%台にまで低下することから、スピーカーネットというものはいかに音抜けに悪影響を及ぼすか、これらの数値からも読み解けます。
そこで当社は、スピーカー開口部のネットを廃止することで、スリムな開口部でありながらも音抜けのよい音響システムを実現しました。この構造の音響システムが「フロント・オープン・サウンド・システム(FOSS)」です。これは、2017年発売の4Kテレビに搭載した音響システムで、アンダースピーカー構成のテレビにおいて、スピーカー開口部前面にスピーカーネットが存在しない画期的な構造のものでした。
中低域以上の再生帯域を受け持つメインスピーカー(フルレンジスピーカー)は、必要とされる音圧・音質面で比較的大きなサイズのスピーカーが必要となりますが、これらをテレビの正面向きに設置すると大きなスピーカー開口幅が必要になりデザイン性が損なわれてしまうため、基本的にはテレビの下部に下向きに配置します。しかし、それでは音質が伴わないため、下向きに放射された音をテレビ前方に効率的に導くリフレクター構造を設けることで、テレビ正面でのスピーカー開口幅は非常にスリムとしながらも、視聴者に直接音が届きやすい音響構造としました。
このように正面はスリムデザインであっても、音質を重視する製品仕様を貫いていました。初代FOSSモデルでは、少しでもテレビ本体の音質を良くするために、メインスピーカーの振動板はできるだけ円形に近い口径形状(振動板サイズ:H45×W100mm)としたため、ボックスの厚みは49mmもありました。その分テレビセット全体の背面厚みも他社比で大きくなっていました。しかしそれは、薄型を追求しすぎずテレビ音質を重要視するメーカー姿勢として、いずれ市場からもよく認知されるようになりました。
それから、上位グレードの製品では、上記構造のメインスピーカーに加え小型ツィーターも追加搭載し、これを正面向きに配置する構成としました。スリムスピーカー開口部内に収まる小型専用サイズのツィーターを開発できたことで、全体的なデザイン構造をキープしながら、高音域の前向き放音を実現しました。このツィーターの前方にも障害物となるスピーカーネットが存在しないため、非常にクリアな高音がダイレクトに視聴者に届きます。FOSSに前向きツィーターをプラスした音響システムが「フロント・オープン・サウンド・システム・プラス(FOSS+)」です。
(2017年モデルの例:<LC-60US45>正面アンダー部にフロント・オープン・スピーカー構造があるテレビ。テレビ筐体下部に下向きに設けたメインスピーカーの音をリフレクターにより前方へ導く構造)
(2017年モデルの例:<LC-60US5>US45 シリーズとメインスピーカー部は同構造で、外観的にもほぼ同じ。リフレクター構造部分の左右両端付近に前向きツィーターも搭載)
メインスピーカーは少しだけ奥まったところに配置しており正面からは直接見えませんが、ツィーターは前向きに配置しているので、テレビ筐体正面にその振動板が剥き出しになっています。
この前向きツィーターのように、スピーカー自体が剥き出しの製品というのは、当社ではそれまで製品化したことがなく、社内規定から変える必要がありました。技術面・安全面・品質面だけでなく、保守サービス面など広範囲で超えなければならないハードルが多数ありましたが、それらを全てクリアし、なんとか初代モデルを世に出すことができました。この技術的なブレイクスルーにより創出した初代FOSS/FOSS+モデルは、市場でもデザイン性と共に音の品位も受け入れられました。
2‐2. スリムデザインと高音質を両立する音響システムの進化
2020年からは、FOSS/FOSS+構造のさらなるスリム化を実現しました。先ほどの2017年モデルでは、テレビ正面のスピーカー開口部の両サイドが角張ったデザインでしたが、2020年モデルでは、スピーカー開口部両サイドに丸みを持たせた舟形のデザインへと進化しました。同時に、音の乱れがより低減されるように内部構造も刷新し、音質的にも大きな進化を遂げました。
これが第二世代FOSS/FOSS+音響構造で、2026年までの6年間に製品化した4Kテレビの多くは、このデザイン音響構造を踏襲しています。2026年モデルではこれをベースに更に進化点があります。詳細は後述します。
(2020年モデルの例:<4T-C65CQ1>基本的に初代 FOSS/FOSS+構造を踏襲しながら、正面のデザイン構造が進化)
また、正面のデザインのみならず、テレビセットの薄型化も進めました。これは主にメインスピーカーの形状厚みの削減によるものです。2017年モデルと2020年モデルの音響イメージ図を見比べていただくとお分かりかと思いますが、ツィーターは変化ありませんが、メインスピーカーの形状サイズが大きく変わっています。
第二世代FOSS/FOSS+テレビセットの薄型化を進めるにあたり、音質は犠牲にしないことを前提に新しいメインスピーカーの開発に取り組みました。スピーカーは振動板サイズを偏平にしすぎたり薄くしすぎたりすると極端に音質が悪化するため、自然な音質が得られる範囲内をサイズ限界と定めて試作を繰り返し、最終的に円形に近い口径形状としました(振動板サイズ:30×80mm)。これにより、第二世代FOSS/FOSS+モデル搭載のメインスピーカーはボックスの厚みが33mmとなり、初代モデルのスピーカーより16mmも削減することができました。しかし振動板が小さくなると音圧面などで不利になるため、ツインユニット方式とすることで音圧レベルの低下を防ぎました。また、ボックスの容積も減らさないよう、テレビセット内部で最大限のサイズを確保することで、全体的に薄くなっても音質は劣化しないスピーカーを開発しました。
ツィーターについても少しだけご紹介します。この振動板サイズはH14×W28mmで、取付部を除く正面サイズはH17×W32mmと、非常に小型のスピーカーです。このサイズ感のスピーカーのため、テレビ前面キャビネットにダイレクトに埋め込むことが可能となっています。なお、小型化するためにレアアースのネオジム磁石を採用しています。

<初代 FOSS/FOSS+モデル搭載メインスピーカー>(初代FOSS/FOSS+搭載メインスピーカーボックス厚み:49mm)

<第⼆世代 FOSS/FOSS+モデル搭載メインスピーカー>
(第二世代FOSS/FOSS+搭載メインスピーカーボックス厚み:33mm(▲16mm))

<ツィーターのイメージ>(前向き搭載)(ツィーター正面サイズ:W32×H17mm(取付部を除く)※上図内の各スピーカーの縮尺比率はイメージです
製品グレードに合わせて、音質の更なる向上を実現し、メインスピーカーユニットの仕様変更、低音再生専用のサブウーファーの搭載など、モデル間の音質グレードを設けました。
2‐3. スリムデザインと高音質を両立する”立体”音響システムへの進化
一方で、映画業界では、ドルビーアトモスやDTS:Xなどに代表される立体音響技術が普及し、民生機にも展開され始め、テレビ製品においては2019年頃から徐々に搭載される潮流となりました。この技術を実現するためには、上からの音を表現できなければなりませんが、テレビの設置と併せて天井にもスピーカーを配置しテレビと連携させるのは、一般の方にはハードルが高いため、テレビ製品においては、テレビ上部に上向きのスピーカーを搭載し、天井に音を反射させることで、疑似的に上からの音を表現することになります。
当社も2021年からテレビ上部にもスピーカーを搭載し、最新の立体音響技術に対応した音響システムを開発しました。これが、「アラウンド・スピーカー・システム・プラス(ARSS+)」です。
これは、アンダースピーカー部は先述の第二世代FOSS+を搭載し、さらに、テレビの上部にも上向きスピーカー(ハイトスピーカー)を搭載した構成の音響システムの名称です。先述のとおり、画面下部からはFOSS+により直接音が届きますが、画面上部からの音もできるだけ視聴者に届きやすくしたいとの想いから、ハイトスピーカーは真上向きではなく、バッフル面を20°前傾斜させた当社独自構造のスピーカーを開発・搭載しました。さらに、フルレンジ(ミッドレンジ)のみならずツィーターも搭載した2way構成とし、低域~高域まで幅広い再生帯域を持ったスピーカーとしました。これらの特徴により、画面上部からも幅広い音域の音がしっかりテレビ前方の視聴位置へ届く効果が実感でき、後述する様々な相乗効果も生まれました。
(ARSS+搭載ハイトスピーカー:バッフル面を 20°傾斜させた 2way スピーカーボックス。ツィーターはバッフル面上で更に 55°回転させることで、高域の拡散性も調整した構造)
(2021年モデルの例:<4T-C65DP1>アンダースピーカー部は FOSS+構造をとり、さらにハイトスピーカーも搭載したモデル。真正面からはハイトスピーカー部はぎりぎり見えないデザイン構造)
ハイトスピーカー部の音響構造についてもう少しご説明します。画面下部はスピーカーネットが存在しないFOSS+構造により音抜けのよい音響を実現できていますので、テレビ上部の音抜けについてもできる限りこだわりました。テレビの上部は下部と異なり落下物等からの保護が必要であるため、スピーカーネットなどを有する構造を設けることが必須です。先述のとおり、一般的な樹脂材のネット(シート)では開口率が低く音抜けが悪くなってしまうため、開口率や強度面で有利となる金属製のネットを用いることでテレビ上部の音抜けを改善しました。
この金属製ネットの一つ一つの孔の形状は「円形」とし、「60°千鳥型」と呼ばれる孔の配列デザインにより、開口率は43%を実現していました。これにより、ハイトスピーカー部も音抜けのよい音響構造が実現でき、テレビ正面はほぼインビジブルなスピーカーデザインにもかかわらず、実際には下からも上からもしっかり音が前に出てくる音響効果を実現することができました。
以下に、ハイトスピーカーネット全体および片方開口部の拡大写真を掲載します。2つの振動板の形状に沿ってネットが設けられています。テレビ実機の状態では、ネット越しに内部のスピーカーがよく見えるレベルの開口を確保できました。
このARSS+における大きな特長は、全スピーカーによる総合ファントムセンターが画面の中に現れることにより、まるで画面の中から音が発せられるかのような音響効果が得られ、オーディオ・ビジュアルの基本概念となる「画音一致」「画と音の一体感」の音響効果が得られます。アンダー・ステレオスピーカーの左右真ん中にはアンダー・ファントムセンターが形成され、ハイト・ステレオスピーカーの左右真ん中にもハイト・ファントムセンターが形成されます。上下のファントムセンターがさらに組み合わさることで、画面中央付近に総合ファントムセンターが形成されるという仕組みであり、適したスピーカー数・スピーカー配置、スピーカー自体の性能、音響構造などいろいろな技術的要素が組み合わさって初めて実現できる音響効果です。
映画館では、スクリーンの裏に配置されたスピーカーから放射された音が、スクリーンを透過して座席に届きます。スクリーンの中から音が発せられることにより「画音一致」の視聴体験が可能となり、巨大スクリーンに映っている映像の中から音が出てくることで、より一層、没入感・実体感が得られますが、ARSS+でもこれに類する効果が得られ、ご家庭でもまるで映画館で視聴しているかのような没入感をご体感いただけます。
ARSS+につきましては、当社の公式Blogでも紹介していますので、併せてご確認ください。
(https://blog.jp.sharp/2022/04/08/32693/)
2‐4. 立体音響システムの進化
初代ARSS+モデルをベースにして、翌年以降もARSS+を搭載する製品を創出しました。その過程の中で、音響構造・スピーカー・音声信号処理回路技術などの進化もあり、音質はより良いものへと進化していきました。進化の内容をいくつかご紹介します。
まず、音響構造の進化としては、先ほどのスピーカーネットの開口率の更なる向上です。開口率を上げるためには、物理的障害物となる金属部分を削減する必要があります。しかし、削減するとネットとしての強度不足が問題となります。そのため、金属部分を削減しながらも強度を保てる、「ハニカム構造」の形状へと変化させました。ハニカム構造といえば、自然界の中では「ハチの巣」が思い浮かびますが、強度に優れメリットが多いことから様々なものに採用されています(航空機、サッカーのゴールネットなどなど)。
これは一つ一つの孔の形状が「六角形」となり、従来の「円形」よりも孔の形状が大きくなります。孔の形状が大きくなり、障害物となる金属部分が減ることで、開口率が上がります。金属部分は減ってもハニカム構造により強度は確保されることになります。この「六角形」の孔を「六角形60°千鳥型」に配列することで、このネットの開口率は55%を実現しました(従来より12%もアップ)。
この新ハイトスピーカーネットの全体および片方開口部の拡大写真を掲載します。テレビ実機の状態では、ネットはもはや透け透けと言ってもいいレベルになり、ネット越しに内部のスピーカーが更によく見えるレベルの開口を実現しました。テレビ製品においては、ここまでの高開口ネットを搭載している製品は珍しいかと思います。

<テレビ実機での新ハイトスピーカー部の写真(左側拡⼤)>
(内部スピーカーの外観も従来品から変化あり)
スピーカーの進化としては、磁気回路にネオジム磁石を採用したスピーカーを開発したことです。先述の小型ツィーターはネオジム磁石を採用していたことをご説明しましたが、ツィーター以外のスピーカーも磁気回路のネオジム化を進めたことで、レスポンスや質感が向上しました。モデルによっては、搭載する全てのスピーカーにネオジム磁石を採用しています。
信号処理技術の進化に関しては、ベース調整用にEilex様の「Eilex PRISM™」技術を搭載していますが、この性能アップを行い、補正精度を向上しました(当社従来比約2.2倍)。これにより、明瞭度だけでなく、躍動感や臨場感がより感じられるリアルな音質が実現できるようになりました。「Eilex PRISM™」は、特定ポイントの音圧周波数特性のみを補正するのではなく、空間全体の音響パワーの変化を捉え補正する新技術です。
このように、このARSS+製品は着実に進化を重ねた結果、「テレビの音とは思えない実力を有する」と評されるなど、これまでAV業界などで多くの高評価を頂きました。特に、「AV Watchアワード2025」では、2025年ARSS+モデルの音質に対して、以下のように絶大な評価を頂きました。
これまで薄型テレビの音質評価には、「薄型テレビにしては」というエクスキューズが常につきまとっていたが、その壁をついに打ち破ったと思う。これは歴史的快挙といっていい。
AV Watchアワード2025
(https://av.watch.impress.co.jp/docs/topic/avwaward/2059558.html)
2‐5.2026年モデルでの音響システムの進化
ここまでご紹介したように、当社ではスリムデザインでありながら高音質を実現する音響システムを構築すべく取り組んでまいりました。そして、今年の2026年4Kモデルでは更なる進化を実現しました。
その技術的特長は大きく3つに分けられます。いずれもこれまでのスリムデザイン構造を踏襲しながら、更に音質を進化できる術がないかとひねり出した結果になります。順にご説明いたします。
(1)傾斜型アンダーメインスピーカーの開発・搭載
(2)ネイチャーテクノロジー™を採用した新リフレクターの開発・搭載
(3)横方向への音場の拡張を実現するサイドスピーカーの開発・搭載
(1)については、アンダースピーカー部の進化になります。従来のメインスピーカーは真下向きであったのに対して、今回は振動板バッフル面を25°前方へ傾斜させた新構造のスピーカーを開発・搭載しました。
2026年4Kテレビのアンダースピーカー部のデザイン構造は基本的に前述の第二世代FOSS+構造を踏襲しており、テレビ正面はスリム開口デザインでありながらも、内部のスピーカーから発せられる音がよりテレビ前方に届きやすくなりました。
このスピーカーの開発にあたり、バッフル面をどこまで傾斜させられるかが大きな焦点になりました。スピーカーユニットは振動板の裏側に、物理的に大きな厚みをもった磁気回路部が存在していますので、ユニットを傾斜させればさせるほど、ボックスの厚みが大きくなってしまいます。このため、ユニット高さ(全高)を抑える必要がありますが、構造的に難易度が上がるだけでなく、全高を縮めすぎると振幅量が取れなくなり性能・音質に悪影響が出ます。一方で、テレビに内蔵した際には、スピーカーの傾斜角度が大きいほうが前方へ音が届きやすくなるため、傾斜角度と音質はトレードオフ的な関係にありました。こうした中、ユニットの全高を少しでも抑えるため、磁気回路にもネオジム磁石を採用してそのサイズを小型化するとともに、内部構造の工夫等により、スピーカーボックスの厚みは従来比ほぼ同等(+2mmのみ)に抑えながら、バッフル面を25°傾斜させることができました。その他、振動板形状をより円形に近くしたり、ボックス容積を従来よりも拡大するなどの取り組みにより、従来同等以上の性能を出すことができました。以下に、その構造イメージ図を掲載します。
(2)についても、アンダースピーカー部の進化になります。従来はテレビキャビネットによるリフレクター構造のみでしたが、今回は、メインスピーカーと開口部の間によりスムーズな音道を構築することを目的に、内部にリフレクター構造(湾曲板)を追加しました。そして、この音道における全体的なリフレクター形状には、なんと、イルカの上あごを模した形状を取り入れました。
イルカは自ら発した音波の反射音を認識することで、障害物など周囲環境を察知します。そのため、上あごは音波を前向きに効率よく放出できる形状となっています。
このイルカの発声の仕組みから着想を得た技術は、自然界の摂理に学ぶ「ネイチャーテクノロジー™」の一種です。ネイチャーテクノロジー™は当社の白物家電で様々な製品に搭載していますが、この度、黒物家電であるテレビ製品にも初めて搭載いたしました。当社のネイチャーテクノロジー™に関しては専用のホームページがありますので、併せてご確認ください。
(https://jp.sharp/nature/)
このネイチャーテクノロジー™を採用したリフレクター構造により、より効率的にテレビ前方へ音を導く効果が得られました。前述の傾斜型メインスピーカーの効果も相まって、テレビセットとしてはスリムスピーカーデザインでありながらも、まるで、前向きスピーカーの音を聴いているかのような「ダイレクト聴感」がより一層感じられるようになりました。
このネイチャーテクノロジー™を採用した音響システムが、第三世代FOSS/FOSS+音響構造です。テレビ正面から見た外観は第二世代とほぼ変わりませんが、内部構造は大きく進化しており、音の伝達効率と音像表現をさらに向上させています。
従来モデルと2026年モデルのアンダースピーカー部の構造イメージ比較を下記に掲載します。

<第⼆世代FOSS構造と第三世代FOSS構造のイメージ⽐較図>
(スピーカーボックスの形状違いも含む)
(3)については、FOSS+/ARSS+構想は継承しながらも、テレビ左右方向の音場を更に広げることを目標に取り組んだ内容です。
具体的には、アンダースピーカー部(FOSS+)の両サイドに、外側20度傾斜のツィーターを搭載しました。これは前向きツィーターのさらに外側に配置しています。テレビ製品におけるサイドスピーカーといえば、画面の両サイドに真横向きにスピーカーを搭載するのが一般的になっていますが、真横向きでは設置環境での反射音は得られやすい反面、テレビ前方への直接音は大幅に減少してしまいます。これにより設置環境からの反射音がきちんと得られない場合、テレビ正面位置ではサイドスピーカーの音をほとんど聴けなくなってしまいます。
そこで当社では、直接音がテレビ正面の視聴者にもしっかり届きつつ、設置環境の反射音・残響音もアップできるように、あえてテレビ正面の位置に外方向に傾斜させてツィーターを配置し、さらに、画面外方向へも積極的に音を導ける構造として半ホーン状のバッフル面を構成しました。これにより、テレビ正面の視聴者にも確実にサイドスピーカーの音が届くようになり、かつ、設置環境の反射音・残響音も豊かになり、サイドスピーカーの効果をしっかり実感できるようになりました。
FOSS+構造にサイドスピーカー(ツィーター)を追加搭載したイメージ図を下記に掲載します。


<FOSS+構造(右側)にサイドスピーカー(ツィーター)を追加搭載したイメージ>
2026年モデルにおいては、ハイトスピーカー搭載モデル(一部除く)にのみサイドスピーカーを搭載しており、ARSS+にサイドスピーカーをプラスしたという意味合いで、その音響システムは「アラウンド・スピーカー・システム・ダブルプラス(ARSS++)」という呼称を設けています。ARSS++が採用されている製品と、ARSS++の音響イメージ図を下記に掲載します。

<ARSS++による⾳響イメージ図>
(ARSS+にサイドツィーター追加)
3. 最後に
ここ数年のオーディオ業界でのトレンドとして、アクティブスピーカーの新製品の登場が目立ちますが、これらは信号処理回路やアンプ回路を単に搭載しているだけでなく、そのスピーカーシステムに最適となる駆動を実現しているため、その持てる性能を最大限引き出した製品と言えます。スピーカーは単純に駆動するだけでは真価が発揮されません。特に小型スピーカーシステムにおいては、それだけで性能向上をはかることにはやはり限界があります。
それを最新の信号処理技術も併用することで、小型スピーカー特有の弱点をカバーすることができ、想像以上の音が出せる製品が多くなってきています。この要因の一つに、駆動するスピーカーが確定していて、精密にかつ最適駆動が行えているからだと考えられます。これは、一般的なセパレート製品の組合せ(ディスクリート構成)では実現しづらいことであり、アクティブスピーカーを開発することは、単に物量を削減できるというだけでなく、音質性能的に大きな飛躍の可能性を秘めていると考えられます。
そういう意味では、テレビやサウンドバー、ネックスピーカーなどもすべてアクティブスピーカー製品であり、その常識を覆す性能向上・飛躍の可能性をまだまだ秘めていると言えます。
本稿では、当社の「テレビの音作りコンセプト」および「スリムデザインと高音質を両立する音響システム」の開発経緯をご紹介しました。「デザイン性」と「高音質」の追求は、薄型テレビの永遠の課題だと考えています。ひたすらに薄さだけを求めるのではなく、高音質との両立を重視した開発姿勢を今後も続けていきます。そして、一般家庭のリビングに設置されているテレビが本格的なレベルのオーディオ性能を併せ持ち、テレビでもオーディオをしっかり楽しめるような製品づくりを目指して、今後も邁進していきたいと考えています。
研究開発と知的財産に関する取り組み
本稿でご紹介した「FOSS/FOSS+」や「ARSS+/ARSS++」の音響システムには、当社が長年にわたり培ってきた独自の要素技術が活用されています。これらの技術は知的財産として権利化されており、代表的な特許の一例として、特許第6404960号、特許第7741644号、特許第7877562号、特許第7887244号などがあります。
関連サイト
- SHARP テレビ
25年の時代を映してきたAQUOSとわたしたちの記憶。
https://jp.sharp/aquos/aquos25th/ - SHARP Blog
21世紀の「わが家のテレビ」『AQUOS』、25周年を迎えました
https://blog.jp.sharp/2026/01/09/55653/
『AQUOS XLED』は画質だけではない。こだわりの音作りとオススメの音声設定について紹介します!
https://blog.jp.sharp/2022/04/08/32693/ - SHARP ネイチャーテクノロジー™
「自然の摂理に学ぶ、暮らしにも環境にもやさしい快適なモノづくり。」
https://jp.sharp/nature/
「ネイチャーテクノロジー™ No.302 イルカ」
https://jp.sharp/nature/dolphin/
執筆者プロフィール

- 尾島由浩(おじま よしひろ)
液晶テレビAQUOSが誕生した翌年の、2002年にシャープ株式会社に入社。入社以来20年以上にわたり、一貫して国内向けAQUOSテレビの音声開発を担当。現在は、国内向け8K/4Kテレビの音質設計の責任者を務める。趣味は音楽鑑賞・映画鑑賞・カメラ(風景撮影)・アコースティックギター演奏など。音質設計業務に活かせるよう、楽器の演奏などを通じて、日々音楽的センスを磨いている。























