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- 個人会員に聞く! 第11回 嚢無し4兄弟 座談会
JASジャーナル目次
2025autumn
個人会員に聞く! 第11回
嚢無し4兄弟 座談会
				インタビュアー 末永信一(専務理事)

個人会員に聞く!シリーズ第11弾は、私・末永とよく行動を共にしているメンバーによる座談会の様子をお伝えします。
この個人会員に聞く!シリーズも10回を超え、出ていただいた個人会員の皆さんの素敵なキャラクターに感心するばかりです。一部にはこのコーナーを非常に楽しみにしていただいている読者の方々がいらっしゃるようで、そんな反応も楽しんでおります。私としては、オーディオ協会のコミュニティーとしての一面を少しでも紹介できるといいなぁと思っています。今回もそれぞれのオーディオに対する思いや協会への期待などを語ってもらいました。

今回登場された個人会員の方々
角田直隆さん(左から2人目):
外資系通信機器メーカー研究員
浅田宏平さん(右から2人目):
オーディオメーカー技術開発責任者/日本オーディオ協会理事
関英木さん(一番右):
日本オーディオ協会職員/元オーディオメーカーの音響エンジニア
インタビュアー 末永信一(一番左):
日本オーディオ協会専務理事
イントロダクション
末永)今回は、関英木さんが4月からオーディオ協会に入職され、これを機に個人会員になられましたので、歓迎の座談会を行いたいと思います。
角田)関さん、35年の長きに渡るお勤め、お疲れ様でした。そして、ようこそこちらの世界へ!また、個人会員としてのご入会、誠におめでとうございます!
関)やっとこのメンバーに追い付いたよ。
浅田)どうですか?オーディオ協会に入職してみて。
関)いや~、思った以上に大変だね!限りなく仕事があるんだもん。
末永)まだまだやってもらわないといけない仕事がたくさんあるんだから、覚悟しておいてね。
関)うへ~~、人使いが荒いー!
全員)(笑)
浅田)楽しそうに仕事しているようで、よかったじゃないですか。
角田)末永さんがいるオーディオ協会に関さんが加わったというのは、鬼に金棒ですよ!
末永)おいおい、誰が鬼だよ?!
全員)(笑)
関)聞いて聞いて!末永さんは、ほんと鬼なんだから。入職してすぐ、「この週末に富山に行って来てくれる?」と言われて「はあ、行けますけど」と答えたら、「新幹線で2時間だしね」と軽く出張命令が出て、北陸オーディオショウを視察してきたワケ。次の週に出張報告したら、次は「ちょっと来月、ミュンヘンに行って来てくれる?」だからね。それでミュンヘンハイエンドを視察。富山と同じノリで行って来て~!だもん。
角田)パスポートを持っているなら、No choiceですな!(笑)。末永さんだって積極的に飛び回っておられるし。
浅田)香港にも行ってなかったっけ?
関)そう、4月に入職して、5月にミュンヘン、7月に上海、8月には香港のオーディオショーを見て来いと、これまでにない頻度で海外出張に行ってきた。
末永)すぐに立ち上がってもらおうと思ってさ、百聞は一見に如かずだから、見識を深めてもらおうと、次々と行ってきてもらったワケよ!
関)確かに、日本のオーディオイベントと全然雰囲気が違っていて、これは出張に行かせてもらって、実際を見てみて勉強になったわぁ。
浅田)どんなところが?
関)まず、会場の雰囲気として楽しそうだし、皆さんの表情が明るいんですよ。
末永)確かにね!
関)会場に開放感があって、広々としていて、なんか充実感がありましたね。
角田)私もミュンヘンに行ったことありますが、会場が広々としているし、展示品がなかなかクレイジーだな!と思いましたね。
末永)クレイジーって、どういうところが?
角田)私が行ったときは、ウエスタンエレクトリックの2mスクエアくらいの、どデカい角型ホーンスピーカーを鳴らしているブースがあったり、パーツ類も扱っているレンジが広かったり、オーディオのすべてが見られるという点で、自由というか、ワクワクする楽しい空気がありましたね。説明員に話しかけると、楽しくていつまでも話が止まらない。
関)休憩できるところもいっぱいあって、みんなそんなところで楽しそうに語り合っているのがいいなと思って。
浅田)OTOTENでも、コーヒーラウンジとかやりましょうよ。
関)いつかはそういうコーナーをやりたいと思って、まずは食品衛生責任者の資格を取ってきた。今は会場の制約があって、簡単には出来ないんだけど、いつかはやりたいと考えている。
末永)すぐに資格を取りにいくって姿勢が、昔から関さんのいいところで、すぐに行動に移せるのは素晴らしいと思うよ。関さんが入職してくれてから、毎朝コーヒーを淹れてくれるんだけど、ほんと美味しくて。
浅田)今いただいているコーヒーが、それですか?
関)そう、さっき淹れておいた。
角田)旨いっす!ご馳走様です!
末永)オフィスにコーヒーの香りが漂うのが、いい雰囲気を醸し出してくれてね!
浅田)オーディオ協会、どんどんアップデートされているじゃないですか!ますます期待出来ますね。
関)OTOTENについて言えば、小川さんや末永さんの立てた目標が高いから大変だよ。
角田)いいじゃないですか、もっと盛り上げていきましょうよ!私たちも協力しますし。
浅田)若い来場者も多くなって、ほんとここ数年すごいよね。
末永)ありがたい話なんだけど、いよいよキャパ的に入りきらなくなってきて、この先どうするかを検討中。あと、女性の来場者もどうやって増やすかとかもね。
関)女性の話は女性に聞かなきゃ!と、この前飲み会をやったわけ。
浅田)それ、末永さんがSNSに上げてた写真で見た見た。楽しそうだった!
関)ああいう楽しそうな写真ばっかり末永さんがSNSに上げるから、協会って楽しそうな飲み会が仕事なのかな?と誤解されているんだけど、けっこう真剣に議論したり、しっかり仕事したりしてるわけよ。
角田)そりゃそうですよ、末永さんの手に掛かれば、みんな上手に働かされる(笑)
関)そうなんだよ、さっき個人会員になられましたと、なんか丁寧に紹介されたけど、「お前も個人会員にならないか?」と猗窩座(あかざ)*のように誘われたんだから!
(*アニメ『鬼滅の刃』に登場する上弦の参の鬼の名前)
浅田)最近、末永さんと関さんと飲みに行った人が次々と個人会員になっているじゃないですか。なかなか関さんも布教活動、頑張ってるなぁと。
末永)そう、個人会員2人に挟まれると、オセロのように個人会員になるという法則が最近流行ってるんだよね(笑)
浅田)確かに、理事会でも個人会員の申請が多くなってますね。
角田)ますます大変なことになっております!
胆嚢のない兄弟
浅田)ところで、今日はなんでこの4人なんですか?
末永)関さんも個人会員になったことだし、いよいよ嚢無し兄弟が揃い踏みってことで、この企画をやりたいな!と思っていたのよ。先月仙台であった音響学会の前夜祭でみんないたから、お願いしたじゃん。
角田)嚢無し4兄弟!
浅田)それで、いいんですか??(笑)
末永)いいの。このコーナーは私が興味を持った個人会員をフィーチャーすることになっているので、今回は嚢無しの人たちについて取り上げる主旨となっております。
関)嚢無しって、ちゃんと説明しないと、読まれる皆さんに分からないんじゃないですか?
末永)この4人は胆石ができる体質だったために、胆嚢を切除して嚢無しになったという共通点があって、胆嚢が無い方がいい音が聴けるということを自慢にしている変な人たちなんです。
浅田)いやいや変な人たちじゃなくて、体の中に石があるとこれが共振を起こすので、無い方がいい音に聴こえるんですよ!
角田)誰が最初に切ったんですかね?
末永)この前、気になったんで確認したら、浅田さんらしいよ。概ね15年前だって。
浅田)はい!長兄です。
末永)次が私で10年前、その1年後に角田さん、その後に関さんって順番だね。
関)は~い!末っ子です。これを読んでいる方で、油物が好きな人は気を付けた方がいいですよ!
末永)特に唐揚げやかつ丼が大好きな人は、将来、胆嚢を切除することになるかもしれませんから、やっぱり食生活には気を付けてくださいね。
末永)さて、本当に胆嚢が無いといい音が聴けるのかどうかは、今後の研究課題とするとして、各々どんな音響特性を持った人なのか、それからオーディオ協会との関わりとか、オーディオ以外の趣味とかを自己紹介してもらおうと思います。じゃあ、手前側の角田さんから。
角田)社会人になったのが1991年で、以来ずっとヘッドホンの開発設計を専門としてきました。今は通信系のメーカーで音響の研究チームをマネジメントしています。仕事も趣味もオーディオなのですが、そういう私の人生、どんなに苦しいものかお分かりいただけますかね??
末永)え?苦しいものなの?(笑)
角田)そうですよ!今の悩みは真空管が200本ほど在庫していて、これを生きている間に全部聞けるのかが課題です。
末永)角田さんのオーディオ人生は、いつ頃から始まったの?
角田)そうですね、高校生の頃にラックスキットを作ったことがあるんですよ。
末永)お!すごいじゃん。
角田)簡単にオーディオって作れるものと勘違いしてしまいましたねぇ。
末永)どういう仕様のものだったの?
角田)トランジスタ駆動の100Wのアンプですね。
末永)なるほど。
角田)中学生の時にウォークマンが発売されて、いい音がするのはこのヘッドホンがいいからなんだろうと思いまして、ヘッドホンだけ買ったんです。これが初めて自分で買ったオーディオになるんですが、就職したら、まさかヘッドホンを本業とすることになるとは思いませんでしたね。こういう縁ってあるものなんですね。
末永)あら、そお。だいぶ長く付き合っているけど、こういう話って、やっぱりインタビューしないと聞けないものなんだね。
角田)オーディオ協会との関わりは、末永さんが専務理事をされるようになったこともきっかけですが、個人会員になって、より専門家の方々と触れ合う機会を持ちたいと思ったことですかね。もうちょっと言いますと、外資系企業に勤めるようになってから、ふと日本のオーディオ業界とつながっていたいと思った時に、やっぱり日本オーディオ協会という存在は非常に重要な位置づけに見えました。それと日本のオーディオを良くすることにも貢献したいと思い、入会させてもらいました。
末永)2022年のOTOTENで協会創立70周年の記念展示として、ラジオ2台を並べてステレオ体験した第一回全日本オーディオフェアの再現デモを手伝ってもらいまして、こういうことを個人会員の人にやってもらうのはいいなぁと思うようになりましたね。
角田)この前のOTOTENでも、放送100年記念展示のコーナーで同じデモをさせていただきました。
末永)放送100年記念展示のコーナーを主催されたNHKの方から、あれをぜひ!とリクエストがあったのよ。
角田)今回もたくさんの人たちに見てもらえて、良かったです。
末永)2022年の時に、短時間であれだけ準備するのは大変だったけど楽しかったね!「OTOTEN2022」70周年記念展示コーナー
角田)ですね!あの時、あのコーナーに立っていたら、なんでお前がここに立っているんだ?とたくさんの知り合いに聞かれまして、個人会員だから……と答えると、みんなから不思議そうな目で見られました。
末永)でも、あれ以来、個人会員になって何か協力させて欲しいという人が次々に現れるようになってね。本当に協会としてはありがたい突破口を開いてくれました。
角田)光栄です。
末永)浅田さんも実はそんな一人で、個人会員の門をくぐってくれたんだよね?
浅田)2022年のOTOTENに向けて、角田さんが末永さんと楽しそうに色々やっていたのを羨ましく思って、私も仲間に入れてもらおうと。
末永)小川会長に自ら「個人会員になります!」と挨拶してたよね?
浅田)そうでしたっけ?実は、大学生の頃に個人会員だったんですよ。多分、会費を払い忘れたかなにかで退会処分になっちゃったみたいですが、当時JASジャーナルも読んでましたから。
末永)そうなんだ!
浅田)中島平太郎さんとか、すごい人だなぁと思って読んでましたよ。原宿の事務所にも行って、協会が販売していたCDを買いに行ったんです。
末永)へぇ、原宿の駅前に事務所があったとは聞いたことあるけど、生き証人がこんな近くにいるとは思わなかったなぁ。
浅田)ええ、行きましたね。
末永)浅田さんが社会人になったのはいつ?
浅田)93年です。今も「音」に関する研究開発に携わっています。
末永)浅田さんと言えば、デジタルノイズキャンセリングヘッドホンを開発した立役者でもあり、いわば音のマッドサイエンティストという感じですかね。大学でも教鞭を取られたり、種々のプロジェクトを推進したり、今も様々なことにご活躍中です。またオーディオ協会では個人会員の理事として、協会運営にも関わってもらっています。
浅田)はい、いろいろやらされています(笑)
末永)ところで、どういうところから音に興味を持ち始めたんですか?
浅田)高校生の頃にですね、バンドを組みまして、ベースを担当していたんですが、その時に音が変えられるエフェクターに興味を持ちまして、そんなことが自分の音の研究の原点ですかね。
末永)なるほど、今でもベースやってるよね?あれが趣味??
浅田)ですね。
末永)小さい頃はどんな少年だったの?
浅田)「初歩のラジオ」や「ラジオの製作」を読んでいた電気少年でした。
末永)何か作ったとか思い出があります?
浅田)平賀源内になりたいと思って、エレキテル(9V→100Vのモバイル昇圧器)を自作して、スターウォーズのライトセイバーみたいに、ロッドアンテナを振り回して遊んでました(笑)
末永)すご!平賀源内!?オーディオについては??
浅田)父親がオーディオマニアで、部屋があったんでそこでレコードやCDを聴いたりもしていましたが、どっちかと言うと、父親に反抗していたものですから……。
末永)おおロックだね!
浅田)小学生の時にPC-8001が発売されてパソコンブームが来て、ラオックスに入り浸っている方が好きでした。
末永)じゃあ、先ほどの高校生の時にエフェクターを触るようになって、本格的に音の世界に入っていったって感じなんですね。
浅田)そうですね。
末永)じゃあ、次は関さん。
関)私は90年に社会人になりまして、私も実はヘッドホンやイヤホンの設計をしていました。入社した頃は職場に数人しかエンジニアがいなくてですね。
末永)逆に言えば、それくらい初期の頃からやってきたということよね。それはそれで、すごいことであり、幸せなことかと思いますよ。
関)その後、アクティブスピーカー、マイク、補聴器、リモコンなども担当しましたが、音響設計を中心としたエンジニア人生でした。
末永)メカ屋であっても、音響屋になるって、どういう生い立ちなの??
関)子供の頃に雑誌記事を見ながらゲルマニウムラジオを作りまして、そこから音楽をいい音で聴きたいという気持ちが芽生えました。
末永)電波を捉えるのが得意だったの?
関)それはそれは、ちょっと苦労しましたよ。
末永)へぇ、そういう原点なんだ。じゃ、なんでメカ屋になったの??
関)自転車を部屋に持ち込んで壁に飾りたいと思って、分解したんですよ。
末永)ほお。
関)そしたら、バラシ過ぎて、再起不能になってしまって、これが悔しくて、機械いじりに開眼した感じですかね。
末永)そういうことね!関さんの私生活は趣味だらけで、これを語りだすと終わらなくなるからね。
関)地元のサッカーチーム(町田ゼルビア)の応援と中古車の再生くらいにしておきますか。(とにかく熱く語ってここに書ききれない!)
末永)譲り受けた中古車が何台だったっけ?
関)23台ですね。
末永)小川さんもビックリしてたよね。
関)採用面談で自慢したった!
末永)なるほど、そうやってメカ屋としての腕を鍛えて、オーディオにも活かせる才能を開花させてきたわけね。
関)小さな組織ではあったのですが、自由に働かせてくれたので、机の下で勝手に試作品を作ったりしたりして、楽しかったですね。
末永)じゃあ、オーディオ協会との関わりを……。
関)オーディオ協会との関わりは、末永さんが前職を辞められる際に、末永さんが担当されていたハイレゾWGの主査を引き継ぐことになりまして、そこから協会のいろんな活動にも関わらせてもらうようになりました。
末永)そう、オーディオ協会の担当を誰に引き継いでもらおうかというのが大きな課題で、結局、関さんがいいんじゃないかってことになって、飲みに誘って口説くかと。
関)そう、急に飲もうと誘いの連絡があって、何だろうな?と思ったら、その頃から事前予告のない無茶ぶりがいろいろと(笑)
末永)実は初めて2人で飲みに行ったという状況なのに、話が盛り上がって、これならこの人で大丈夫だと私も自信がついて、ハイレゾWGを一緒に頑張ろう!と合意してもらったところで、実は秋に会社を辞める予定なんだと告白しちゃった(笑)
関)えー、聞いてないよ~!ですよ。
角田)でも、そういう関さんも、末永さんを追うようにオーディオ協会に。
関)前から60歳になったら、オーディオ協会で雇ってくださいね~と言い続けていたんだけど、ちょっと考えが変わって予定より早めにお世話になることに。
末永)関さんが来るまでオーディオ協会があったらね~、なんて言ってたんだけどね、なんとか5年持ち堪えたねぇ。
浅田)いやいや、けっこうOTOTENなんか盛り返してるじゃないですか。
末永)会員の皆様の応援があってのことよ。それと協会職員もここまでよく耐えて頑張ってくれましたよ。
関)よく末永さんが、入職した頃は「ここはまだ江戸時代か?」と思ったそうで、この5年で協会の明治維新を成したとおっしゃるんだけど、それをすごく実感とする感じがして、私が4月に入ってきて、昭和の働き方を思い出したよ。けっこう根性で乗り切ってる感じ。
角田)昭和??
関)4月からもう一人ソフトエンジニアが入職されたことで、現在すごい勢いで協会のIT化が進んでいて、もうすぐ協会は21世紀を迎えようとしている感じかな??
浅田)まだ25年遅れてますねぇ(笑)。でも、末永さんは理事会ではしっかりデータ分析した資料を示しながら、色々な説明をされたりしてるけど。
末永)これまではエクセルで騙し騙しやってきたんだけど、ようやく明るい兆しが見えてきた感じだよ。
関)2027年に協会は75周年を迎えるんだけど、小川さんは100周年を目指して物事を考えなきゃ!といつもおっしゃっているので、そこに向けて準備していくのが我々のミッションかなと。
角田)いい話です!オーディオ協会の未来、めちゃ明るいじゃないですか。
浅田)じゃあ、その100周年に向けて、今日は明るい未来を語り合いましょう!
末永)いい流れですな!
浅田)そう言えば、末永さんは自己紹介しないですか?
末永)いいよ、私は……。
関)嚢無し4兄弟の本当の長兄なんですから、ぜひ(笑)
末永)自分は決してオーディオマニアじゃないし、作ることも極めるほどやってこなかったので、専務理事のポジションに座っているのはけっこうむず痒いんだよね。
角田)末永さんに限っては、それは関係ないでしょ!
末永)これ!という思い出話を紹介するなら、社会人になったちょっと後だけど、ヤマハから発売された「DSP-1」を手に入れたことかな。今でいうサラウンドを体験できるんだけど、音源が2chしかない時代だっただけに、初めて体験した時には驚いたことこの上なく、お店の人に「この価値の分かる人に買ってもらいたい」とかうまいこと言われて、その場でカードで買ったんだよなぁ。そんな衝動買い、私には珍しいんだけど。
浅田)伝説のモデル!
末永)ジャズとか聴くと、本当にその辺で演奏しているように感じたわけ。そんなことにのめり込んでいた時期は、スピーカーの違いによる音の変化なんかも楽しんでいたから、ボーナスのたびに何を買おうかと物色するのが密かな楽しみだったね。
関)80年代は電気屋さんの中に占めるオーディオ率が高かったですからね。
末永)それと、この製品の技術のバックグラウンドを紹介した本があったんだよ。『音場を創る:ヤマハDSP-1によるオムニサウンドの世界』というタイトルなんだけど。それも買ったんだけど、当時は詳細までは理解できなくて、だからオーディオをもっと理解しようといろんな本を読み漁ったりしてたな。
浅田)その本は今でも持っていますよね?
末永)押し入れの中の段ボール箱に入っているはず。
浅田)見たいですね!
末永)そうだよね。この話には山﨑芳男先生(早稲田大学名誉教授)も関わっておられたと聞いているので、自分でも改めて見てみたいと思ってたんだよね。
浅田)ぜひ掘り出してきて見せてくださいよ!
末永)そろそろ終活しなきゃと思っていたので、ちょっと待ってて。
浅田)何を言ってるんですか(笑)
末永)今、立体音響の研究がまだやられているのを応援しているわけだけど、40年前のあの体験がひとつの原点かなと思っています。
角田)いいお話だ!オーディオ以外の趣味は、やっぱり散歩ですか?
末永)いやー、最近は暑くて無駄に外に出られないから、散歩もご無沙汰だよ……。
最近のOTOTENに集う若者たちについて
浅田)OTOTENも若い人がたくさん来るようになりましたが、あれはどういうきっかけで、そうなってるんですか?
末永)私が協会でお世話になる際に、小川会長に面談をしてもらったんだけど、「仕事なのでどんなに泥臭いことも真面目にやりますけど、オーディオ協会って、未来が見えないのがなぁ……」とちょっとぼやいたのね。
角田)そのセリフ、末永さんらしい!
末永)そしたら、小川さんがひっくり返るほど思いっきり笑われて、「じゃあ未来が見えるように何をやっていただいてもいいから、私も応援しますから一緒に頑張りましょう!」と言われたわけ。こんな気持ちのいいことを言ってくれる人の元に就いた限りは、この人のためにもしっかり頑張ろう!となったわけよ。
浅田)小川さん、素敵ですね!
角田)人の心を掴むのがうますぎる。
末永)それで、最初は何から手を付けていいのか分からないから、手探りばかりで結果が出せない時もあったけど、まずは手が届くところにいた若い人たちに話を聞くことを始めたわけ。
浅田)双葉ちゃんとかですね。
末永)そうそう、それと上野くんだね。あの子たちは協会の明治維新に欠かせない人材だったよ。怖がりもせず、よくこんなおじさんと付き合ってくれて、私たち世代が気付かないことを教えてくれた。OTOTENに若い人たちを引き付けるには、若い人たちがいないといけない、とかね。

OTOTEN2025のPodcastに出演する上野啓太さん(左)と岩本双葉さん(右)
角田)なるほどですね!それはそうかも。
浅田)あの子たちは、どこから現れたんですか?
末永)双葉ちゃんは、ReC♪ST(学生の制作する音楽録音作品コンテスト)の受賞者で、上野くんは自ら個人会員になると飛び込んできてくれたんだよね。
角田)風が吹いてますね、いい感じです。それでどうしたんですか?
末永)とにかく会場に若い人が目に見えるくらいにしなきゃと、いろんな大学や専門学校の先生方に学生にOTOTENに行くように促して欲しいとお願いしたり、AESの学生支部の皆さんと連携したりしてきたのと、若い人たちの目に留まるSNSに情報を流すといったことは、職員の八木さんもすごくはまってくれて、そんな施策をたくさんやってきましたね。
関)VTuberのAZKiさんをOTOTENのアンバサダーに使ったから若い人がたくさん来たと思われているけど、それは確かにそうなんだけど、それまでにしっかり若者が寄り付く雰囲気を作れていたから、若い人たちが寄ってきてくれたし、若い層のリピーターも今年はすごく増えて、ようやくその成果が出てきた感じ。
角田)ポスターなんかも若い人を意識したデザインになっていますもんね。
末永)あれは職員の秋山くんが、「若者はヘッドホンやイヤホンにしか興味がないのではなくて、本格的な据置オーディオにも興味はあるんだけど、ポータブル系のイベントと違ってOTOTENは年齢層が高めで、自分たちには縁の無いイベントだと捉えられている」と言って考えてくれたわけ。だからキービジュアルにも若い人たちを歓迎します!というメッセージを込めているんだよね。
角田)なるほど!
浅田)若い人たちは、聴くことだけをオーディオと捉えてなくて、音楽を作ったり発信したりすることにも大変興味関心が高いので、そういう方面をもっと取り込んでいきたいですよね!
末永)そこは、浅田さんの得意とする領域だと思うから、しっかり協力して欲しいんだよね。まさにエフェクターを触っていた若き日の浅田さんのようなね。
関)OTOTENって、ハード製品のアピールの場というイメージが強過ぎて、もっとコンテンツとの連携もやっていくべきだし、アーティストとの連携、会場での演奏なんかも含めてエンタテインメントなイベントにしていきたいんだよね。
角田)いいじゃないですか、夢が広がりますね!
末永)若い人もオーディオに興味があると分かったら、メーカーも輸入商社も若い人向けのマーケティングを開始して、業界が盛り上がっていくと思うんだよね。そんな日まで私の寿命があるか分からないけど、きっとそんな日が来ると信じてオーディオ協会も頑張っているってところです。
オーディオ協会の未来は?
末永)じゃ、オーディオ協会の未来はどうあるべし?について最後に皆さんにもうちょっと語っていただきたいのですが、ま、ここは関さんに抱負など語ってもらおうか。
関)オーディオ協会は、いろんなことにチャレンジしているし、意義深い活動も多いのですが、つい最近まで外にいた人間だから思いますが、内輪な感じに見えるものが多いので、これをなんとかしたいなと思っています。
末永)そう、もっと存在感を示すためにも、外にアピールせよとよく言われるんだけど、ある範囲のところまでしか声が届かないし、メジャーなメディアにはなかなか拾ってもらえない。ここは本当に課題なので、関さんにはしっかりアイディアを出していってもらいたいと思いますね。
角田)もっとオーディオ協会のことを知ってもらえば、さらに色んな人たちが寄ってきて、違った世界が広がると思います。
末永)そうだよね。オーディオ以外の分野の皆さんにも注目されて欲しいと思うくらいなんだけどね。
角田)末永さんが音響学会やAESに顔を出して、いろんな方々と触れ合っていますけど、各々の得意とするカテゴリーが別々に存在している感じで、これを近づけて楽しくやれたらいいなと思います。イベントの相互乗り入れとかできないものですかね?
浅田)この前4人が揃った音響学会なんかも、いろんな人たちとつながるきっかけになるいい場所だし、たくさん学生も来るので、しっかり連携したいですよね。
角田)ほんと、音響学会の場で末永さんには色んな方々を紹介してもらっていますし、今回は講演なんかもされて、ほんと頭が下がります。
末永)いやいや、角田さんのマメさには敵わんよ。
角田)思えば、2022年の札幌の音響学会の前夜祭からですね!
末永)あの時の招待講演も、なんでみんな私のつまらない話を聞きに来るんだよ~と恥ずかしかったけど、いいきっかけになったかもね。
浅田)ちゃんと心に響く言葉がありましたよ。
末永)そんなこと言ってもらって、ありがとうね!これからは、関さんがやるから。そのためにも仙台の音響学会にも参加してもらった。
関)出た、無茶ぶり~~!
全員)(笑)
関)確かにいい出会いがいっぱいあった。
角田)私は先ほども言いましたが、オーディオ協会を通じて日本のオーディオを良くすることができる可能性を秘めていると思うので、オーディオのエンジニアを目指そうとする人たちに学びの場を提供するとか、若いエンジニアにワークショップを開催するとか、そういったサービスが出来たらいいんじゃないかと思っています。そういうことに協力していきたいですね。
末永)そうやって若い人たちとどんどん接点を持ちたいよね。
角田)AZKiさんをきっかけに、趣味としてのオーディオの啓発はうまくいっていると思いますが、仕事の方向での人材育成も積極的にやっていくといいと思っています。
関)だね!私もその辺は思うところで、協会にどんどん遊びに来てもらえる雰囲気を作らなきゃだし、会議室の試聴環境も整えようと今準備してる。
浅田)1階に喫茶店 兼 試聴室、2階にオフィスみたいな物件に引っ越したいとか言ってなかったっけ?
末永)なかなか都合のいい物件が無くてね。
関)場所も山手線から離れると、来てもらい易さを相反するからね。苦戦してる。
末永)浅田さんはどうですか?
浅田)日本語で言うオーディオの定義を変えていきましょうと以前から言っていますが、今の若者はメディアを再生する機器だけをオーディオだとはとらえていなくて、演奏や歌声を届けるマイクやミキサーなんかもオーディオの仲間に入れていくべきだと思っています。
末永)この辺は、私も音楽制作に関わる若者たちとたくさん触れる中で、その空気はすごく感じていて、自然とこのあたりと親和性が出てきたらいいなぁと思っています。
浅田)私も大学で教えたりしているので学生と接していますが、若い人たちはオーディオについて、知られてないというのが実態かと思うんです。レコードの話なんかするとすごく盛り上がるんです。
末永)そういうのあるよね。
浅田)レコードについては、茶道のように所作を楽しむ感じで、そういうところに価値を生んでいくチャンスがあるような気がします。
末永)私も茶道については、ベンチマークしている。
関)オーディオ協会に来て初めて知ったけど、いろんな活動をしている団体がたくさんあって、こういうところと連携して、オーディオ協会もますます活動の幅を広げなきゃいかんなぁと思っているところ。
末永)今、オーディオ協会にたくさんの若者が寄り添ってくれているのが強みなので、これを次の時代の文化にしていかなきゃいけないと思っています。
関)オーディオ検定なんかも早くやりたい。
末永)音響学会やAESに顔を出すと、若い女性がたくさんいるのを見掛けるんだけど、オーディオ協会の周辺は何か違うんだよね。女性にも愛されるオーディオの世界が、明るい未来が広がって欲しいなと思うのです。
浅田)何かをきっかけに大きく弾けるかもしれませんから、諦めずに頑張りましょう。
末永)ひとつは、知的好奇心をくすぐるようなネタが少ないのかな??と思ったりしているんだけど、あまり小難いレベルのものじゃ、また若い人たちはすぐに離れていってしまうのかもしれないから、塩梅が難しいねぇ。
関)その辺は男女関係ないでしょうね。
末永)最近のJASジャーナルは、いいレベルの話が多いと思うので、どこかでブレイクして欲しいなぁと思ってます。
角田)確かに面白い寄稿も多いし、仲間内では話題になるじゃないですか。もっと広げるには、やっぱりPRですかね?!
浅田)オーディオ製品の開発や設計をやりたいという学生たちも、そんなに減ってないんですよ。そういう人たちにはぜひ読んでおいて欲しいですよね。
末永)オーディオ業界を目指す学生さんたちに、どうやったらリーチできるのか、ちょっと今度一緒に考えて!
浅田)はい、やりましょう。
末永)2027年の協会創立75年は、奇しくもエジソンの蓄音機150周年なので、この年を目指して何かをやっていくことはとても大事だと思っています。それは協会創立100年に向けた踏み台を作っていくことだと思っています。関さんも入ってきて半年、目まぐるしく働いてもらっていますけど、本領発揮はこれからということで、この嚢無し4兄弟の絆を忘れずに、引き続き協力してください。
関)こんなご縁を頂いたので、頑張りますよ!
角田)もちろん協力します!
浅田)こちらこそ、よろしくお願いします。
末永)今日はありがとうございました。
最後に
この座談会の後も、協会の近くの町中華に行き、夜遅くまでいろんな話をしていました。みんな根っからオーディオが好きなんだなぁ~!個人会員として協会にどういう貢献ができるかをいつも気にしてくれていて、本当にありがたい存在です。何か共通点があると人間というのは強い絆が生まれるものであり、それは今後も大事にしていきたいと思う座談会でした。
各々、猛暑の中も忙しく動いてまわっていた様子でしたが、健康に過ごしていることを確認しました。ただ、相変わらず油の摂取の多い4人でした(笑)
筆者プロフィール
 
- 末永信一(すえなが しんいち)
 1960年、福岡市生まれ
 2019年、ソニー株式会社退社
 2020年6月より、日本オーディオ協会専務理事に就任














