2025autumn

インターフェイス株式会社における
国産オーディオ技術へのこだわりと挑戦

インターフェイス株式会社 営業部 課長
 森拓也
インターフェイス株式会社 営業部 課長補佐
 川瀬健太

1. はじめに

インターフェイス株式会社は2024年に日本オーディオ協会の法人正会員となり、2024年、2025年と「OTOTEN」に出展する機会を頂きました。この展示会は、オーディオ愛好家の方々が一堂に会する貴重な場であり、普段はBtoB事業を中心に展開している当社にとって、エンドユーザーの皆様と直接対話できる大変貴重な機会となりました。

本稿では当社が得意とするオーディオソリューションを中心に事業内容についてご紹介いたします。OTOTENと同様に、JASジャーナル読者である日本オーディオ協会の会員の皆様、関係者の皆様にご理解が深まれば幸いです。


OTOTEN2025 弊社ブース風景

2. 会社プロフィール

当社は1984年の創業以来、長野県諏訪市の本社と東京都立川市の技術センターの2拠点体制で、BtoBに特化した組込みソフトウェアと電子回路の開発・製造において、着実な実績を重ねてきました。2007年、ASIO規格のWindowsドライバーソフトウェア開発を契機に、オーディオ機器・電子楽器分野でのソフトウェア開発にも注力してきました。以来、数年ごとに新たなオーディオソリューションを開発・リリースし、国内30社以上のオーディオメーカー様の製品に採用いただき、業界における信頼を築いてまいりました。

表1:主なオーディオソリューション
製品名 概要
ITF-USB DSD、ITF-USB EXPCM ハイレゾオーディオ再生ソリューション
ITF-USB DSD LC 廉価版ハイレゾオーディオ再生ソリューション
ITF-Audio for Windows ASIO規格準拠Windowsドライバー
Bulk Pet 独自USBオーディオ転送技術
ITF-NET AUDIO ネットワーク対応オーディオソリューション

3. 国産技術へのこだわり

オーディオ機器向けのソフトウェアやソリューションには、海外製品という選択肢も少なくありませんが、開発過程でのコミュニケーションの課題や、品質保証、安定供給に関する懸念から、国内パートナーを求めるお客様の声も多くありました。

私たちは、そんなお客様の声に応えるため、参入当初より「国産だからできること」を大切にしてきました。例えば、例年実施されるWindowsやmacOS等のアップデートに対して、いち早く動作検証を行い、必要に応じてプログラムを修正。また、30社以上のお客様との取引実績を活かし、特定の製品で発見された課題や改善点を、他の製品にも水平展開することで、より強固なソリューションへと進化させています。お客様の要望をしっかり理解し、期待に応える品質と納期を、時差のない迅速なコミュニケーションにより実現する。そして、長く安心してお使いいただけるサポート体制を整える。そんな地道な取り組みが、多くのお客様からの信頼につながっていると自負しています。

4. USBオーディオとハイレゾのブームを牽引

受託開発の実績を元に、2007年にASIO規格に準拠したWindows用ドライバーソフト「ITF-Audio for Windows」を開発しリリースしました。当初は新参メーカーということもあり、なかなか採用していただけず販売に苦労しました。当時、国内でASIOドライバーを販売する企業は皆無で、メーカーは自社設計するか、海外製のドライバーに頼らざるを得ない状況でした。そのため、不具合が発生しても対応が遅れて、ユーザーに迷惑をかけてしまうという状況をよく耳にしました。

ドライバーソフトの販売で各オーディオメーカーを回っている中で、海外製USB Audioコントローラーの不具合の話を相談されました。それは特定のサンプリング周波数の音源が再生できないという不具合の話でした。そこで弊社は、USBオーディオクラス2.0(UAC2.0)とDSD再生に対応したコントローラー「ITF-USB DSD」の開発に着手しました。2011年夏のことでした。

「冬までに開発したら採用を検討する」という、あるメーカー担当者からの声もあり、弊社開発陣は必死になって3ヶ月で音楽が再生できるところまで完成し、そのメーカーへデモンストレーションに行きました。その時に「DSDらしい音が鳴っていますね」というお褒めの言葉を頂いたのは、今でも忘れることができません。

デモンストレーション用の機体を持って、西から東、国内を文字通り飛び回りました。なんとか2012年には3社にご採用いただき、その流れで再生用プレイヤーソフト「ITF-Audio Toolkit」の開発も行い、プレイヤーソフト・ドライバーソフト、コントローラーまで一貫して弊社で開発・サポートできる体制を整えました。

そうしているうちに、口コミで「国産のオーディオソリューションがある」というのが広まり、採用メーカーが年々増えていきました。そんなタイミングでJEITA主催のハイレゾオーディオセミナーで、USBオーディオソリューションについて講演させていただいたのも、採用社数増加の一因となりました。その後は、各メーカー様からのご要望などもあり、DSD録音用の「ITF-USB DSD REC」や、廉価版の「ITF-USB DSD LC」などをリリースし、現在に至ります。

当たり前の話ではありますが、不具合やOSアップデートに迅速に対応し、音切れ・頭欠けを極力発生させない安定した設計、レイテンシーの調整など、オーディオ機器としての性能を一番に考える姿勢が各メーカー様に受け入れていただけた要因だと考えています。

5. ネットワークオーディオソリューションの展開

近年、音楽の楽しみ方は大きく変化し、ストリーミングサービスの普及とともにネットワークオーディオの需要が急速に高まっています。当社では、こうした市場の変化を見据え、2020年に新たなソリューション「ITF-NET AUDIO」を開発。さらに2023年には専用コントロールアプリケーション「Taktina」をリリースし、次世代のオーディオ体験の実現に向けて取り組んでいます。


Taktinaスクリーンショット


Taktinaロゴ

ITF-NET AUDIOは、ネットワークオーディオの新時代を見据えた統合ソリューションです。NXP社のi.MX8M miniプロセッサを採用し、PCMで最大768kHz、DSDで24.6MHzという高品位な音源再生に対応。UPnP/DLNA、OpenHome、Roon Readyといった主要な音楽再生プロトコルを標準搭載し、さらにAmazon Music、Qobuz、TIDALなどの主要ストリーミングサービスにも対応しています。

オーディオメーカー様の製品開発をトータルにサポートするため、ハードウェアとソフトウェアを統合的に開発。安定性と拡張性を両立させることで、スムーズな製品開発を実現しています。

専用コントロールアプリケーション「Taktina」では、技術的な完成度に加え、ユーザビリティの向上にも注力しました。ストリーミングサービスとローカルライブラリーの統合管理、直感的な操作性、そして高度な音楽ライブラリ管理機能を実現。スマートフォンやタブレットから快適に操作できる洗練されたUIにより、エンドユーザーに新しいリスニング体験を提供します。

このように、従来の高音質再生技術に加え、ネットワーク接続性とストリーミングサービス連携という新たな課題に取り組むことで、オーディオ業界のデジタル化に対応したソリューションを提供しています。

6. ネットワークオーディオの難しさ

「ITF-NET AUDIO」「Taktina」をリリースし、オーディオ機器メーカー様のサポート業務の負担を減らすために、弊社はエンドユーザーの問い合わせ対応を自社で独自に行っております。

直接のユーザーサポートを通じて、USB DAC製品と比べてネットワーク製品は難しいことを改めて感じました。ネットワークにオーディオ機器をつないで音が出るまでに超えなければいけないハードルが多い上に、どの機器が原因で音が出ないかを切り分けることが非常に困難です。せっかく買った商品なのに、音が出せないために手放すという話も少なくないという話も聞こえてきます。そういったトラブルにも、一つ一つ問題を調査し、原因を特定して解決して、音楽が聴けるように丁寧に対応しています。弊社の様な中小企業がそこまで対応するのは珍しいといわれますが、エンドユーザーの安心のためにもサポート対応しております。

7. OTOTENへの出展とユーザーの声

冒頭にも申し上げた様に、OTOTENに出展し、普段はBtoBのお客様としか会話をしていない当社にとって、エンドユーザーの皆様と直接対話できたことは、非常に喜ばしい機会となりました。

会場では「ITF-NET AUDIO」「Taktina」を展示し、来場者に実際に体験いただくことで、製品の使いやすさと音質の良さを直接感じていただきました。最も印象的だったのは、様々な年齢層の方から頂戴した率直なご意見です。60代以上の方々からは「ストリーミングサービスへの移行に不安がある」「シンプルな操作性が良い」といった声が多く、20〜40代からは「ハイレゾ音源の再生品質が素晴らしい」「様々なストリーミングサービスを跨いで使える点が魅力的」といったデジタルネイティブならではのフィードバックを頂きました。

これらの生の声は、製品開発の方向性を再確認するとともに、デジタルオーディオへの移行に不安を感じるユーザーへのサポート強化や、直感的な操作性の重要性を再認識させてくれました。OTOTENでの経験は、技術をいかに多様なユーザーに届けるかという視点の大切さを教えてくれました。今後も展示会で得られたフィードバックを活かし、より多くの方々に高品質な音楽体験をお届けしていきます。

8. 小さな企業の挑戦

弊社のような日本の小さな企業がストリーミングサービスに対応するというのは、なかなか一筋縄ではいきませんでした。アメリカの大手企業に問い合わせても、各部署を回されたあげく回答がもらえない日々が1年半続きました。ようやくストリーミングサービス実装の糸口がつかめたものの、今度はデジタル著作権管理の仕組みを実装しないといけなくなり、別の大手企業に問い合わせをするも6ヶ月もの間、まともな回答が得られずに進めることができなくなりました。そんな時にヒントを頂戴した担当者の方や、大手企業の担当者につないでいただいた国内企業の方々のお力添えがあり、なんとか開発を進めることができました。思い起こせば、USB Audio開発の頃からお客様企業に応援してもらいながらコツコツと続けてこられたので感謝ですね。

9. おわりに

これまでご紹介してきたように、当社は長年にわたりオーディオ機器向けソリューションの開発に携わってまいりました。製品開発から出荷後のサポートに至るまで、一貫して高品質なサービスを提供し続けることで、多くのお客様から信頼をいただいています。これからも音響機器の技術を支えるソフトウェアベンダーとして10年先、20年先を見据えて、業界全体の活性化に向けて、業界の皆様と共に歩んでいきたいと考えています。

執筆者プロフィール

森拓也(もり たくや)
1992年よりソフトウェア開発者として組み込み開発に従事。複写機のファームウェア開発や、半導体検査装置のファームウェア・PCアプリ開発などを経て、2007年にインターフェイス(株)入社。2007年末に開発部門から営業部門に移籍後は、趣味の音楽知識を活かし、音響機器メーカーや電子楽器メーカーなどとの取引を開拓。以後、音楽関連の製品開発の企画や販売に携わる。趣味は楽器演奏、DTM、DJ、レコード収集、アニメ鑑賞。
川瀬健太(かわせ けんた)
学生時代から音楽鑑賞やギターの演奏を趣味としていたことから、USBオーディオ製品の開発に携わるインターフェイス(株)の事業に興味を抱き、2017年に新卒で入社。営業部に在籍し、音響機器や電子楽器メーカーの顧客を担当している。