2025autumn

香港ハイエンドオーディオ&ビジュアルショウ2025見学記

日本オーディオ協会 事務局 衣斐良憲

2025年8月8日(金)から9日(土)にかけて、香港ハイエンドオーディオ&ビジュアルショウ2025(香港高級視聴展/通称:音響展)を見学してきました。今後のOTOTEN のベンチマークとする目的で、アジア最大の熱気にあふれたオーディオ展示会を視察したものです。昨年の末永専務理事のレポートと合わせて読んでいただければ、より深く理解できるものと思います。

私・衣斐は、今年4月に日本オーディオ協会へ入職しました。そのフレッシュな目線で「どのような出展社が参加しているのか」「どのような来場者層が訪れているのか」「会場全体の雰囲気がどうなのか」「OTOTENに参考になりそうな要素がないか」を意識しながら見て回りました。入職直後から北陸オーディオショウ、ヘッドフォン祭、アナログオーディオフェアなど国内の展示会は見学してきましたが、海外の展示会を視察するのは今回が初めてでした。そのため、日本の展示会と、海外の展示会とで何が異なるのかを自分の目で確かめたいという思いもあり、視察してきました。

序章

香港を訪れるのは、社会人になりたての頃(約30年前)以来でしたので、街の様子も大きく変わっていました。空港からホテルのある香港島までは「エアポートエクスプレス」という高速鉄道が走っており、渋滞に巻き込まれることなく、わずか24分ほどで移動できます。空港の到着ゲートを出て「オクトパス」という日本でいうSuicaのようなICカードを購入すれば、エアポートエクスプレスを割引で利用できるほか、小銭を使わずにスターフェリーなどにも乗れる便利なアイテムです。香港を訪れる際の必需品と言えるでしょう。

香港島のメインストリートはとてもきれいで近代的。街を走る赤いタクシーは印象的で、イギリスの影響を感じさせるカラフルな2階建てバスや路面電車が走っていました。一方で、少し奥に入ると古いアパートが密集しており、建物の外に取り付けられたエアコンの室外機から水が滴り落ちてくるため、歩く際には注意が必要です。昼食は現地のローカルな食堂で頂きましたが、物価は日本と同じくらいか、やや高めに感じました。

会場について

香港オーディオショウの会場は、湾仔(ワンチャイ)エリアの海辺に面した大規模なコンベンションセンターで、スターフェリーから見てもその存在感は目立っていました。

今年の香港高級視聴展のキービジュアルは昨年の黄色から緑に変更され、ヘッドフォンから音符が流れ出すデザインで、実際のところ、ヘッドフォンの展示が多く見受けられました。事前登録で2日分のチケットを約2,000円/日で購入。配布物は会場パンフレット、QRコード付きリストバンド、トートバッグ、SACDで、今年はクーポン券はありませんでした。

展示会場のレイアウト

香港オーディオショウの展示会場は、昨年とほぼ同じ構成でした。メイン会場は3F:Hall3であり、東京ビッグサイトのホールのような大規模会場をパーティションで区切ったような形です。ここでは、ポータブル機器(ヘッドフォン、イヤフォン)の展示や物販(CD、LP、書籍、ケーブル、中古品、イヤフォンアクセサリーなど)が行われていました。また、カラオケボックスのような小規模試聴室が外側を囲むように29部屋設けられ、ホームシアターや据え置きオーディオシステムの展示・デモが行われていました。

2F:S2会場には試聴用の会議室が10部屋あり、4F:S4会場には試聴用の会議室が10部屋と、大規模な主賓会場「CHANCELLOR ROOM」があって、ハイエンドオーディオ機器を取り扱う代理店が出展し、デモが行われていました。

来場者の様子

初日の午前中は、入場ゲートに人が殺到すると聞いていましたが、今年は受付も比較的スムーズであり、落ち着いたスタートで、正直なところ本当に3万人も来場するのかを疑うほどでした。しかし午後になると、各会場には溢れんばかりの人が集まり、2F・4Fの試聴会議室は部屋に入れない人が出るぐらいで、Hall3も通りですれ違えないほどの大混雑となりました。

来場者層を観察すると、2F・4Fの試聴会議室は、ハイエンド機器がゆえに年齢層の高い方が中心で、夫婦で来られている方はいるものの、家族連れはあまり多くはありませんでした。一方で、Hall3はポータブル機器がメインの展示であったため、若者やカップルの来場者が非常に多く、また子供連れの親子もたくさん見受けられました。きっと将来オーディオファンになってくれることでしょう。初日に比べて、2日目は特にその傾向が顕著でとても活気のある展示会でした。

Hall3の様子

メイン会場である3階のHall3は、大規模会場をパーティションで区切り、170もの展示ブースが並ぶ、まさに「オーディオの総合デパート」といった雰囲気でした。まず目についたのは、CDやLP、書籍、オーディオケーブル、中古・新品の据え置きオーディオ機器を扱う物販コーナーです。現地の歌手がブースでCDやLPを直接販売しており、ファンがサインをもらったり写真を撮ったりする光景が見られました。こうした仕掛けが、集客のポイントになっているのだと感じました。

ケーブル類の展示販売も多く、中には驚くような高額商品も並んでいました。据え置きオーディオ機器も新品・中古を問わず販売されており、売れ行きまでは不明ですが、販路としては興味深いものでした。さらに、イヤフォンの外装アクセサリーとして、カラフルなアクリルパーツを展示しているブースもありました。ネイル感覚で付け替えて楽しむかのようで、ポータブルオーディオがファッション文化として広がりつつあることを実感でき、とても新鮮に感じました。

今回の香港オーディオショウの特徴とも言えるほど、多くのポータブルオーディオ機器が展示されていました。ヘッドフォンやイヤフォン、アンプシステムを立ったまま気軽に試聴できるようになっており、気に入ったらその場で購入する来場者もいる様子でした。「特別価格にしますよ!」といった熱心な売り込みもあり、会場の活気をさらに高めていました。

Hall3の外周を取り囲むように、カラオケボックスのような小さな試聴室が29室並んでいて、そこでは主に据え置き型のオーディオシステムの展示・デモがされており、来場者はじっくりと音を体験できるようになっていました。入口はビニールで仕切られ、中の様子を外からも覗ける構造。外壁は木工パネルのような造りで、各室内にはエアコンが設置されており、大音量の試聴にもかかわらず、外部への音漏れはそれほど気にならない程度に抑えられていました。

また、ホームシアターの試聴室も2室ほどありましたが、会場全体で見ると映像系の展示は少なく、「オーディオ&ビジュアル」を掲げつつも、音響が中心になっている印象を受けました。これは昨今のトレンドを反映しているのかもしれません。

会場を歩いていて展示会の華やかさを引き立てていたのは、昔の展示会を思わせるコンパニオンの存在でした。勢いのある展示会だからこそ可能な演出だと感じました。一眼レフで彼女たちを撮影する来場者もいました。さらに、プレスの方と思われるメディア関係の方が各ブースを熱心に取材している姿もありました。それだけ海外のメディアからも注目され、多方面で取り上げられる国際的なイベントであることを実感できました。

S2、S4、CHANCELLOR ROOMの様子

今回の香港オーディオショウで最も注目を集めていたのは、4Fの主賓会場「CHANCELLOR ROOM」に展示されていた、Marten社(スウェーデン)の超高級スピーカーでした。888万HKD/ペア、日本円にして約1.6億円という驚きの製品で、まるでライブ会場にいるかのような臨場感あふれる音場を体験することができました。価格も別次元ではありますが、最高峰のオーディオが奏でる音に耳を傾けているだけで、大きな満足感が得られました。

2階と4階の各会議室では、各代理店が取り寄せた海外ブランドのハイエンドオーディオシステムが展示・デモ試聴がされていました。現地の言葉での説明時間も長かったので、自動翻訳機を持参すれば良かったなと思いました。

試聴会議室の扉はOTOTEN同様、常時開放されており出入りしやすい雰囲気でした。廊下が広いためか、音漏れもほとんど気にならず、快適に試聴できる環境が整えられていました。さらに、2階・4階にあるやや大きめの会議室では、スペースをうまく活用して複数のオーディオシステムを展示し、デモ時間を切り替えていたのが印象的でした。

会場では、各国からユニークなデザインのスピーカーが数多く展示されていました。中でも印象的だったのは、VIVID AUDIO(南アフリカ)の「Moya M1」です。ペアで約8,000万円という超高級モデルで、デザインが「宇宙戦艦ヤマト」に登場する白色彗星帝国の戦艦のような迫力あるフォルム。外観のインパクトに加え、数多くのドライバーが搭載されていることもあり、その音は圧倒的で、迫力あるサウンドを響かせていました。

また、MBL社(ドイツ)の無指向性スピーカーは、ほおずきを思わせる独特の形状で、全体に音が広がる心地よい響きを体験できました。さらに、Wilson Audio(アメリカ)の「Alexx V」は、アメリカらしい明快でカラッとしたサウンドを奏でており、各社の音作りの違いを感じられるのも大変興味深い点でした。

デモで再生される楽曲は、中国の曲が多かったですが、日本の楽曲をかけているところもあり、「安全地帯」や「五輪真弓」などが流れていたのは嬉しい驚きでした。また「スター・ウォーズ」のテーマなど世界的に知られる曲もかかっていて、高級オーディオをゆったりした気分で聴くときは、やはり聴き慣れた曲の方が、気分の上がり具合も違うなぁと感じました。また、日本のメーカー各社の展示にもたくさんの人でにぎわっており、人気の高さを感じたことを書き留めておきます。

ライブイベント

展示会期間中は、THEATER会場で毎日のようにライブコンサートが開催されていました。日本からは評論家の潮晴男・麻倉怜士両氏がプロデュースする「UAレコード」所属のジャズシンガー・情家みえさんが、最新アルバム『ボヌール』のプロモーションとしてライブを披露されていました。

チケットを求めて現地のCDショップを訪れましたが、すでにSOLD OUTで、私は入ることができませんでしたが、現地の観客にも大盛況で、その後のサイン会は3時間にも及んだとのことでした。こうした華やかなイベントが、来場者の満足感をさらに高めていると感じました。

休憩スペースの充実

会場規模が大きいこともあり、休憩スペースも比較的充実していました。Hall3 のバックヤードにはカフェ&休憩コーナーが設けられ、広めのテーブルと椅子が配置されており、カフェテリアで軽食や飲み物を買って休憩している来場者の姿が多く見られました。また、2階や4階への移動途中のエスカレーター付近には休憩用のソファが置かれており、歩き疲れた来場者が一息つく光景も確認できました。

まとめ

アジア最大級のオーディオ展示会だけあって、視察した2日間とも多くの来場者で会場は熱気に包まれていました。特にポータブル機器の展示ブースには、若者やカップル、女性の来場者も多く、一昔前の日本のオーディオ熱を思い起こさせる光景。一方、ハイエンド機器の試聴会議室では、年齢層の高い来場者が中心で、日本の状況によく似た雰囲気が見られました。

香港の人口は約700万人と東京の約半分であるにもかかわらず、日本のオーディオ展示会以上の集客がある理由は、欧米や南アフリカを含む世界各国から集められた多数のハイエンド機器や最新のポータブル機器を体験できること、会場で雑誌、CD、LP、ケーブルなどを購入できることや、さらには歌手によるライブイベントを楽しめるなど、来場者にとって「お金を払ってでも参加したい」と思わせる、満足度の高い体験が提供されているからだと感じました。日本では、オーディオ文化が一部のマニアのものだけになっている現状があるかと思いますが、今後のOTOTENでは、世代や性別を問わず幅広い層が楽しめる多様なオーディオ体験を提供することで、オーディオ文化を再び盛り上げ、育て広げていきたいと感じました。

執筆者プロフィール

衣斐良憲(えび よしのり)
1968年、東京都生まれ
1992年~2025年、ソニーで民生ビデオ機器のソフトウェア設計に従事
2025年3月、ソニー退社
2025年4月、日本オーディオ協会へ入職