2023autumn

連載:思い出のオーディオ Vol.9

今号のJASジャーナルはヘッドホンの記事が多いとのことで、私の思い出のヘッドホンについて寄稿したいと思います。

私が音響研究所にいた20代の若手技術者の頃、マイヘッドホンを何にしようかと考えていた時期がありました。音を職業にしている以上は、世界的に音の評価の高いものが欲しかった。音質は優先順位1番としても、長時間使っていても耳や頭部が痛くならない、圧迫感がない、装着の心地よさに加えて、あまり無骨に大き過ぎるものは女性の顔には似合わないし、とあれやこれやと考えたあげく、ゼンハイザーの定番である密閉型のHD25にしました。

ヘッドバンドも太い1本ではなく、細めの2本で頭頂の前方と後方でホールドし、きつくなくて安定感がよく、イヤーパッドも心地よい柔らかさで、しっとりと皮膚に吸い付くような心地がしました。まるでイタリア製のハンドメイドのシューズのように、ピタっとくるのが何とも言えず、ゾクゾクしたものです。

もちろん、音は芯のある力強さとしなやかさが両立しており、嫌みがなく、何を聴いても、応えてくれる信頼感があり、私の好きな音でした。その後は、ずっとこのモデルを買い替えながら使い続け、今は真っ赤なMomentumになりました。

もう1種類、スタックスのオープン型も使っていました。音は自然で、ヘッドホンに縛られている感じがなく、軽くてリラックスもできる。ゼンハイザーはジャズを没入して聴いたり、かなり細かい音を集中して聴いたりしていたのですが、スタックスは、ぼけーっとクラシックを聴いたりするときに、というように、うまく使いわけていたように思います。

今では、TWSを使うようになったので、オーバーヘッドは、サイレントピアノの練習の時くらいしか使っていないのですが、それでも、TWSとは違う、モノとしての魅力があります。ヘッドホンをファッションにしたのは、ソニーのウォークマンですが、TWS全盛の今でも、オーバーヘッドには十分なファッション性がありますね。

欧州の人たちがオーバーヘッドを好むのは、ファッション性という自己表現になっているのも大きいと思います。高齢化が一番進んでいる日本で、素敵なおばあちゃんが、素敵なヘッドホンをファッションで首にかけている、そんな情景を思い浮かべて、楽しくなっている今日この頃です。