2024winter

連載:思い出のオーディオ Vol.10

日本オーディオ協会 会長 小川理子

新年早々に発災した能登半島地震の犠牲者の方々には謹んでご冥福をお祈りしますとともに、被災者の方々が一日も早く安全安心を取り戻されますよう、被災地域の復興が進みますようにと願うばかりです。

日本オーディオ協会におきましても、新しい年の始まりとともに、日々の暮らしを豊かにする、いい音で聴くオーディオ文化の進化発展のために、今年も尽力してまいりたいと思います。

さて、JASジャーナル新春号では、ルームチューニングについての特集を組ませていただきました。ルームチューニングは、この半世紀の間で様々な技術が開発され、どんな場所でも本当に簡単便利にいい音で聴けるようになりました。コンサートホールなどの建築音響の世界でも、過去にエンジニアを悩ませてきた問題がどんどん解決されています。これもデジタル技術の進化の賜物といえます。

私は新入社員の頃の話を、よくこの連載でお伝えしていますが、ルームチューニングにまつわるエピソードをおひとつ。

スピーカーを開発していた時、先輩技術者から「スピーカーの音っていうのは、設置される部屋の影響が半分くらいあるよ」と言われたことがあります。いくら実験室で、いい音が再生できたとしても、最終的に設置される条件で全く変わってしまう、ということです。うーん、それならばどうすればいいんだ!? と悩むこともしばしば。

私が新入社員の頃は、デジタル技術も今ほどではなく、やっぱりいい音で聴くには、家の中に専用のオーディオルームが必要なのか…。でも普通の生活では、なかなかそこまでできない…。そう思いつつ、若気の至りで、会社の中で建材事業をやっている部署に、吸音とか反射拡散とか、そういう音響内装材って開発できるのでしょうか?と話しに行ったこともあります。研究テーマとして、スピーカーも、アンプも、全て音響内装材と同じように壁面の中に入れて、未来のオーディオルームを創ることに挑戦したこともあります。何十キロもある重量級の壁面材を自分で組み立てて実験していた頃を思い出すと、やはり技術の進化は素晴らしい。

今では、CAE(Computer Aided Engineering)で様々なことが短時間でできてしまいます。そしてスマート化がどんどん進んで、賢いオーディオでいつでもどこでも一人一人に寄り添って楽しませてくれる時代が到来しました。

本年もよろしくお願いいたします。