2023spring

マツダのカーオーディオにかける思い

マツダ株式会社
統合制御システム開発本部 電子性能開発部
主幹エンジニア 若松功二

概要

マツダ株式会社は2019年販売のMazda3から新規にMazda Harmonic Acousticsと名付けられたカーオーディオシステムを開発しました。その歩みをご紹介いたします。

1. はじめに

マツダ株式会社は2020年に創立100周年を迎えました。長きにわたり当社を支えていただいたお客様やご支援いただいている関係者の皆様のおかげであり、心より感謝申し上げます。その中で私が担当しているオーディオについて紹介いたします。

2. 本文

Mazda3の開発は2015年に遡ります。その時に次世代車両について私は「理想のオーディオシステム」の課題に取り組みました。しかしながら理想を一つに決める事は難しいため、私は下記を目指しました。

その為のアプローチとして下記を行いました。

ⅰ)人間特性を考慮する
   ・音波を低域と中高域に分離してそれぞれ最適化する
ⅱ)車体設計と同時にスピーカーレイアウトを行う
   ・音響性能のための理想のレイアウトを確保する
ⅲ)マツダ独力でスピーカーレイアウトを検討する
   ・オーディオメーカに依存しないことで今後の共通コンセプトを実現する

まずは好みの音量で聴くためにオーディオ側のポテンシャルを上げることを考えました。左図の上側の線がオーディオ、下側は走行時のロードノイズや風切り音のイメージです。点線は前モデル車両になりますが、低域のレンジが特に狭くなっています。(ドアに低域再生のスピーカーを配置していたため、音量を上げるとビビり音が発生していた)

そこで低域について車両のどの場所にスピーカーを配置するのがよいのかを検討した内容が右図になります。例として100Hzでは青と赤が効率の良い場所になりますが、周波数を変えると波長が変わるため赤の場所は移動しますが、車両隅の青い場所はどの周波数でも青のままです。そのため車両の隅にスピーカーを配置することで低域のポテンシャルを上げることができると考え、実際に小型のスピーカーを用いて様々な場所で計測しても車両の隅は一番効率が良いことを確認できました。

また、車両における音場の感じ方を調べたものが上図になります。カウルサイドにスピーカーを設置した状態でスコーカーとのクロスオーバーを考えた際にクロスは200Hz付近であればスピーカーが物陰に隠れても人間に与える音質の影響は少ないと判断しました。カウルサイドのスピーカーを200Hz付近まで出力させることは左右のカウルサイドにスピーカーが必要ということにも繋がります。

では200Hz以上はどうしていくのかということですが、スタジオやホームでの試聴環境をベースに考えるとスピーカーが直接自分に向いており、真中で音を聴くことができます。(目指すべき原音再生をするために必要な条件、写真は当社試聴室)

しかし、旧モデルはインパネ上の中高域のスピーカーをレイアウトしており、フロントガラスからの反射音を中心に音楽を聴いていました。さらに車の中では人がスピーカーに対してオフセットしている状況になります。着座位置の偏りや強い反射音は、ステージ上の楽器やボーカルの位置や、音色、鮮明度に悪影響を与えてしまいます。そこで、中高域の反射音を低減することを考えました。

実車でのスピーカーのレイアウトの検討を行い、試聴室に近い印象を受けて決めたのが上の図のMAZDA3の中高域用スピーカーの位置です。位置や角度を変えて実際に耳で聴き比べ、「ドア前方上方」に配置しました。さらに、運転席で「左右からの音」の到来時間と音圧を揃えた「運転席モード」も初採用しました。いわゆる「タイムアライメント」ですが、直接音中心であるため、左右の時間差の基準が正確で高精度な制御を実現できました。

自動車メーカーに試聴室があることを驚かれる方もいらっしゃると思いますが、音の世界は、料理の世界と一緒だと思っています。美味しいものをきちんと食べて味わっておかないと、味を伝えることは難しいと思います。それと同じで良い音をきちんと理解した上で、感性を磨き、それを開発に生かしていく。そのためにこの部屋が必要と考えています。


Small商品群:MAZDA3/CX-30/MX-30    
Large商品群:CX-60

MAZDA3では3Lの容量を持つカウルサイドウーファーを採用しお客様からご好評をいただいておりましたが、さらに低いところまで担えるよう、昨年から販売を開始したCX-60ではFRベースによるカウルサイドの延長とカウルサイドの骨格の一部をBOXとして使うことで4.8Lにまで拡大させています。これにより低域の再生帯域を増やし、55Hzから可聴できるというダイナミックレンジの拡大を実現し、より上質なサウンドを再現できるようになりました。

また、右側フロントシート下に配したアンプは6年もの歳月をかけ開発。安定した電源供給やマツダ専用のカスタムコンデンサの搭載を始め、微細な音まで再現し音の情報を最大現に引き出す素音チューニングを行うなど、ハイエンドオーディオの技術思想を盛り込んだ高音質アンプを完成させました。さらに高音質化機能としてCD音源に含まれる量子的ノイズを除去するMSR NR(Master Sound Revive Noise Reduction)をクルマに搭載される純正オーディオとしてはじめて採用することでさらに音質の向上を実現しています。是非普段聴いている音楽をマツダの車で聴いていただければと思います。その際は運転席モードもご体感ください。

3. まとめ

新しい世代のモデルを作るにあたり、オーディオの理想とは何かを議論しました。そのなかでスピーカーのレイアウトを一から見直しました。カウルサイドへのスピーカーの取り付けなど生産工程を変えるほどのインパクトのある内容もありましたが、他部門も巻き込みながら量産することができました。本稿をきっかけにして、一人でも多くの方がマツダのオーディオのこだわりを認知していただければ幸いです。

執筆者プロフィール

若松功二(わかまつ こうじ)
幼少期から音楽を聴くことが大好き。宮﨑大学に入学後、中古の車を購入してカーオーディオに目覚める。
オークションで機材を購入して車にインストール&チューニングを行い、ドライブしながら音楽を聴くことに幸せを感じ、車メーカーへの入社を決意する。宮﨑大学大学院を卒業後、マツダ株式会社に入社し、オーディオに関する実研を担当。2015年よりMazda3から始まる第7世代商品群のオーディオシステムの開発に従事し現在に至る。