2021winter

「ライブ配信」を支えるTASCAMの
ラインナップについて

ティアック株式会社
音響機器事業部 タスカムビジネスユニット 国内営業部 販売促進課
加茂 尚広

概要

新しい文化「ライブ配信」の若者ならではの楽しみ方について、筆者が業務の傍ら体験し触れて感じたことや、「今も昔も変わらないコミュニケーションの面白さ」、「高音質に対するニーズ」などをライブ配信黎明期から今に至るまでをTASCAM製品の歩みと共に述べます。

ABSTRACT

This article aimed to introduce the experience and the thoughts of the author who has been involved with “live streaming” scene as a new culture amongst the young generations and the interestingness of the communication which hasn’t changed from the olden days, and the demands for the high-quality live-streaming with the history of the TASCAM products which has been supporting the live-streaming culture from “live streaming” dawning age.

1. はじめに

昨年、新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威を振るい、我々の生活にまつわる様々なことに悪影響を与えました。「エンターテイメント」も例外ではなく、ライブやコンサートが中止を余儀なくされました。結果、多くのアーティストが活動の場を求めて「ライブ配信」に動き出したのです。それまでネットを主戦場にしたサブカルチャー寄りのアーティストが中心だったライブ配信が、メジャー、インディーズ問わず、新たな表現の場としてクローズアップされるようになりました。

しかしながら、発展途上ともいえるライブ配信には多くの課題があり、現在も試行錯誤が続いております。例えば、映像や音響において、レコーディングやコンサートとは異なるエンジニアリングが求められます。また、配信の収益化についても、戸惑う声がありました。

弊社では5年前から、製品の販促をきっかけに自社でライブ配信を行ってきました。それは配信文化への理解不足から始まり、壁の連続でした。しかし、ライブ配信の楽しみを共有できると、その壁を乗り越えることも苦ではなくなりました。

ここでは公私ともに「ライブ配信」を行ってきた私、加茂尚広が、「音」でライブ配信を支えるTASCAMの機材について説明をさせていただくと共に、ライブ配信にまつわる若者文化をご紹介させていただきたいと思います。

2. ライブ配信 黎明期

ライブ配信が一般的になりだしたのは2010年頃です。当時はUstream やニコニコ生放送が人気で、配信は主にパソコンを使って行うものでした。ハイスペックなパソコンやカメラ等の機材に加え、ライブ配信をするには専門的な知識が必要であり、一個人が発信するには、まだまだ敷居が高いものでした。

この頃TASCAMで発売していたオーディオインターフェースに「US-144MKII」という製品があります。これは、パソコンの作曲ソフトで曲作りをするミュージシャンへ向けたものでしたが、2012年頃に「ライブ配信でUS-144MKIIが定番化しているらしい」という情報をキャッチしました。そこで、市場調査を兼ねて「ライブ配信」なるものを視聴するようになりました。


※写真はUS-144MKII

はじめてニコニコ生放送を見たときは頭に???(はてなマーク)が いくつも浮かびました。ただひたすら、缶チューハイを片手に歌っていたり、パジャマ姿の女性がベッドに座って、とりとめのない話をしていたり・・・。

しかし表示されるリスナー数は数百人、中には数千人という配信者もおり、正直理解に苦しむものでした。「いったい何をしゃべってるの?なんでこんなに多くの人が観てるの?」と、その内容が理解できず、すぐにブラウザを閉じたことは、一度や二度ではありませんでした。ただ製品は確実に売れているので、「市場調査!これは仕事だ!」と自分に言い聞かせ、何度も配信を視聴するうちに、あることに気づきました!

配信者が一人しゃべりをしている姿は、私が中学生の頃にラジカセに吹き込んで遊んでいた「ラジオDJごっこ」と同じではないかと。私が学生だった1980年代、オールナイトニッポンなどの深夜ラジオがブームで、聞かせる相手もいないのに、カセットテープに一人でトークを吹き込んでは悦に入ったものでした。

そして、配信で流れるコメントは、深夜ラジオのDJの元に送られてくるハガキと同じなのだと気づきました。コメントを基に配信者はトークを膨らませていきます。そんなことに気付くと、中身がない話をしていると思っていた配信者に、急に親近感が湧いてきました。まさに配信者とリスナーが一体となり「ライブ配信」という空間を楽しんで作り上げているように映りました。

「ライブ配信って、しがらみがない本音で話せる彼ら、彼女らの居場所なんだ!」と若者の文化を垣間見た瞬間でした。

3. 自らもライブ配信

TASCAMブランドのオーディオインターフェースや周辺機器の販促のために、弊社では2015年からニコニコ生放送やSHOWROOMを中心にライブ配信を始め、2016年から2019年まで「ティアックストアニュース」と題して、毎週月曜日欠かすことなく企業ライブ配信を行ってきました。

しかし、そこには様々な壁が立ちはだかりました。

手始めに配信のやり方をネットで検索すると多くの情報を得ることができますが、悪く言うと散乱しており、分かりにくいものでした。実際に配信をしても失敗の連続でした。ある時は音が小さかったり、ある時は音が悪かったり、ある時はBGMが二重で鳴ったり・・・。ヘッドホンでモニターをしながら喋っている分には問題がないのにアーカイブを見ると音の悪さに愕然としました。

「ティアックストアニュース」の視聴者は当初わずか数名でしたが、その数少ないリスナーさんからもお叱りのコメントを頂く始末。

「あんな若い子が綺麗な音で配信しているのに・・・」

くじけそうになることもありましたが、一つ一つ問題点と解決方法を見つけ改善していきました。回数を重ねるうちにクオリティもあがり、番組も数十名、時には数百名にて観ていただけるようになり、「配信の音を良くしたい」など製品相談のコメントが多く寄せられるようになりました。「ティアックストアニュース」以外にもプライベートでライブ配信を楽しむこともあります。趣味のギターをつま弾きながら他愛もない話をしたり、DAWソフトで趣味の作曲をしたり、お部屋の大掃除を配信したり。

「作業枠」ってご存じですか?
ペイントソフトや作曲ソフトで黙々と作業している模様を配信することを言います。こんな単純作業でも番組として成り立ってしまうのが、ライブ配信の面白いところです。

4. ライブ配信 拡大期 ~TASCAMの挑戦~

2015~2016年頃は、ライブ配信がパソコンからスマホへと移行した時期でした。パソコンとは違い難しい設定は不要、スマホの配信アプリを立ち上げれば簡単に配信が出来ます。ツイキャスのブームも相まって、メカに疎い若い女性や学生も一斉にライブ配信をするようになりました。

一方、パソコンを使った配信は「ゲーム実況」や、インターネットカラオケを使った「歌ってみた配信」といった、映像や音も凝った配信が人気を集めます。特に「歌ってみた」と呼ばれるジャンルは、動画投稿やライブ配信を通じて、多くのシンガーが人気を博し、次々にメジャーへ進出する状況になりました。中には武道館や横浜アリーナなどでソロコンサートをするアーティストまで現れました。スマホやパソコンの配信でファンと気軽に交流し、更なるファンを獲得するというスパイラルです。

そんな中、TASCAMはライブ配信に思いきり舵を切ったオーディオインターフェース「MiNiSTUDIOシリーズ」を2016年に発売します。これは作曲用のオーディオインターフェースとは一線を画し、配信を盛り上げる効果音のポン出しやリバーブ、ボイスチェンジャーなどの機能を搭載した、これまでにないユニークな製品でした。「MiNiSTUDIOシリーズ」はTASCAMが得意とする質実剛健なデザインとは一線を画し、女性にも受け入れられるデザインを目指しました。

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※写真は現行モデルのMiNiSTUDIO CREATOR US-42B

ただ発売当時は「クオリティより手軽さ」という当時の風潮もあり、思ったほど売れませんでした。そこで、「ティアックストアニュース」を立ち上げた際に苦労した経験から、「配信の音でお困りのお客様は多いはず」と「MiNiSTUDIOシリーズ」を使った配信ガイドを多数アップし、番組でも積極的に解説を行いました。このような努力の甲斐もあり、ライブ配信がアーティストの表現方法として定着し、配信アプリのサービスが増え始めた2017年頃から、音質に関して非常に関心が高まったこと、「MiNiSTUDIOシリーズ」がパソコン、iPhoneともに使用できたことも相まって、今ではライブ配信用オーディオインターフェースの定番機種として高い評価をいただいています。

さらに配信で寄せられたお客様の声を製品開発にも反映させていきました。それがハイレゾレコーダー「DR-Xシリーズ」です。TASCAMでは2011年に発売した「DR-05」を筆頭に、様々なレコーダーを展開してきましたが、2019年に発表した「DR-Xシリーズ」はオーディオインターフェース機能を搭載し、iPhone用のUSBマイクとして使用可能となりました。このUSBマイク機能は非常に秀逸で、リミッター、ローカットフィルターさらにはリバーブと配信者が必要な機能が一通り揃っています。しかもマイク部はステレオとモノラルの切り替えが可能であり、録音やライブ配信の枠を超え、現在ではテレワーク用のマイクとしても広くご活用いただいています。


※左からDR-05X、DR-07X、DR-40X

TASCAMでは2020年1月に業務用エンコーダー、ライブストリーミング用AV Over IPエンコーダー/デコーダー「VS-Rシリーズ」を発売しました。これはPCレスで安定したライブ配信を可能にした業務用機器で、現在プロミュージシャンのライブ配信をはじめ、設備、ホールなどストリーミングを活用する現場に導入いただいています。


※左からVS-R265、VS-R264

「VS-Rシリーズ」は高音質ライブ配信に必要とされるバランス、アンバランスアナログ入力を備え、ビットレートも30Mbpsまで対応可能です。特筆すべきは音声ビットレートで、こちらは512kbpsまで対応しています。現状ライブ配信サービスの音声推奨ビットレートは128~192kbpsが主ですが、近い将来の高音質配信にも十分対応できるポテンシャルを備えています。

5. まとめ ライブ配信の音質向上がオーディオの未来を切り拓く!

様々なシーンを通じて老若男女、たくさんの人々と交流が活発になり、トレンドの把握や配信サービスや製品の盲点、TASCAM機器を使った解決方法など、こちらが想定していない使い方を逆に教えて頂くこともあり、勉強になることが多々あります。ライブ配信ならではのリアルタイムで交流できるありがたみをいつも感じています。

オーディオの世界で語られる「いい音」とライブ配信で求められる「いい音」は異なる文脈かもしれません。しかし、「高音質の心地よさ」というのは共通です。若者のオーディオ離れが叫ばれて久しいですが、ライブ配信の高音質化で「いい音」の魅力に気づいた若者が「ライブ配信」から音楽のリスニングでも「高音質の魅力」に気づき、オーディオの世界においても新たなムーブメントを起こしてくれるのではないかと大きな期待を持っています。

「いい音」を追求するTASCAMは、時には試行錯誤も交えながら、新しいお客様の声に真摯に耳を傾けて、「いい音の未来」を皆さんと一緒に作り出したいと考えております。

執筆者プロフィール

加茂 尚広(かも たかひろ)
TASCAMの販売促進に従事。SNS運営やデジタルマーケティング、アーティストリレーションを担当。様々な製品やイベントでアーティストとのコラボを実施。ライブ配信はスマホからVR機器を使ったバーチャル配信まで手掛ける。
主な取組実績:奥田民生さんコラボレコーダー、初音ミクスピーカー、石川綾子さんハイレゾヘッドホンコンサート、はとむぎASMRさんとのコラボ動画、人気歌手 伊東歌詞太郎さんとのコラボPV、人気声優 石黒千尋さんとのコラボ動画など