202011

360 Reality Audio(サンロクマル
・リアリティオーディオ)のご紹介

ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ株式会社
V&S事業本部 事業開発部
担当部長 横山 達也
音楽業界担当 小室 弘行

概要

ここ数年、様々な分野で耳にする言葉に“没入感”というものがあります。これまでよりも、“より深く入り込むことができる”という文脈で使われています。今回は“音楽における没入体験=イマーシブ体験”ということで、これまでとは違う新しい音楽体験である『360 Reality Audio』をご紹介いたします。

ABSTRACT

These a couple of years, the term “immersion” has been seen and used in a variety of fields.
It is used in the context of “being able to go deeper” than ever before.
In this issue, we are introducing a new music experience called “360 Reality Audio,” which is a different kind of music experience from what we’ve experienced in the past.

1. はじめに~『360 Reality Audio』とは?

まず最初に『360 Reality Audio』の読み方ですが、『サンロクマル・リアリティオーディオ』と読みます。その名が示す通り、制作者側は360度全天球の好きな場所に音を配置することができ、リスナー側は全身包み込まれるような没入感ある立体的な音場を感じることができる、新しい音の体験になります。立体的な音の体験はスピーカーだけでなく、ヘッドホンでも体験できる点がこれまでとの大きな違いです。従来のステレオをヘッドホンで聴くと、音楽は通常頭の中で再生されます。360 Reality Audioの場合は、ヘッドホン再生でありながらも頭の外(頭外定位といいます)から立体的に音が聴こえるような体験になります。

2. 音楽の聴き方の変化

言うまでもありませんが、今日でも音楽を聴く際にはステレオが主流です。1990年代半ばDVDの登場で、サラウンドという言葉が一般の方にも知られるようになりました。従来のステレオに加え、センターと後方左右にスピーカーを加えて、5.1chサラウンドという言葉が使われ始めます。
2000年代に入り、それまでの平面で取り囲まれるサラウンドに高さ方向が加わった 3D サラウンドの様々な方式が登場します。これらの多くは耳の高さから上方向も含めた、地球儀で言えば北半球の空間で立体的な音楽が楽しめるようになりました。

360 Reality Audioは上方向だけでなく耳の高さから下の方向にも表現の幅を広げ、360度全天球から包み込まれるような没入感を感じることができる新しい方式です。オブジェクトオーディオ技術をベースにしていて従来のチャンネルベースとは異なり、音そのものに位置情報や動きの情報を追加することができます。このため、より臨場感のある音場表現が可能になり、ボーカルやコーラス、それぞれの楽器の音源一つ一つに位置情報を付加し球状の空間に配置。ソニー独自の立体音響技術によって、音に包まれるような臨場感あふれる音をお客様にお届けします。

3. 『360 Reality Audio』の楽しみ方

360 Reality Audioが目指すのは、よりたくさんの音楽ファンの皆様に、この新しいエンタテインメントを手軽に楽しんでもらうことです。このためにファイルのダウンロードや物理メディアによる販売ではなく、定額制のストリーミングサービスで楽曲を配信しています。
日本でもここ最近利用者が増えている音楽ストリーミングサービス。海外では国によりその比率は様々ですが、すでに音楽を聴く手段としては主流になっています。現在、すでに欧米・アジアにて360 Reality Audioのサービスがはじまっていて、下記のようなミュージックサービスから楽曲を聴くことができます。

それでは360 Reality Audioの楽曲を聴くためには何を準備すればいいでしょうか。必要なものはというと、

  1. 360 Reality Audio対応ミュージックサービスアプリをインストールしたスマートフォン
  2. お手持ちのヘッドホンまたはイヤホン

この2つです。スマートフォンに関してはAndroid OSでもiOSでも構いません。これら2つがあれば、あとは360 Reality Audio対応のサービスと契約をしていただくだけで、追加機材を購入する必要なく360 Reality Audioの楽曲を聴くことができます。
ヘッドホンで360 Reality Audioを楽しむうえで、一つ重要な技術があります。それがヘッドホンの個人最適化になります。
音は鼓膜に届くまでに床や壁の他、自分の体でも反射・回折されることでその特性が変化していて、人はその変化を感じ取ることで音の聴こえる方向を判断しています。360 Reality Audioではこのような聴覚の特徴を利用することで、あたかもヘッドホンの外側から音が聴こえているような感覚を作り出し、立体的な音場を再現します。ところがこの特性の変化は頭や耳の形状によって人それぞれ異なるので、より深い没入感・臨場感を得るためには個人個人のヘッドホン再生音が最適化される必要があります。

360 Reality Audioでは、ソニー独自のスマートフォンアプリ「Sony | Headphones Connect」でユーザーに自分の耳写真を撮影してもらい、クラウド上で推定アルゴリズムによって聴感特性を解析、ソニー製推奨ヘッドホンで再生すれば個人に最適化された音を体験できる仕組みを構築しました。
360 Reality Audioは全てのメーカーのヘッドホンと組み合わせて楽しむことができますが、「Sony | Headphones Connect」アプリで個人最適化をすれば、よりその人に合った音楽体験を楽しむことができます。
もちろんヘッドホンだけでなく360 Reality Audioは対応のスピーカーでも楽しむことができます。専用スピーカー、サウンドバーなど様々な商品にて将来的に対応予定ですのでご期待ください。

4. 『360 Reality Audio』のエコシステム

対応コンテンツの制作・配信・再生の技術をクリエイターやアーティストの皆様に広く提案し、没入体験を身近に楽しめる新たなエコシステムの形成を進めています。
新しい技術を使った360 Reality Audioコンテンツを制作できるように、クリエイターやプロデューサー・エンジニアの方々にはソフトウェアを準備しています。このソフトウェアを使えば、音をどこに配置するかをヘッドホンで確認しながら制作を進めることができます。新型コロナウイルスの影響で海外のスタジオはクローズしているところもありますが、自宅でヘッドホンを使って制作から確認までを行い、ストリーミングサービスへ新曲を届けています。

国内ではヘッドホンでの制作とあわせて実際のスピーカーで 360 Reality Audio の確認を行うために、乃木坂にあるソニーミュージックスタジオ東京や西五反田にあるソニーPCLのクリエーションセンターに対応システムを準備しました。

360 Reality Audio楽曲はすでに欧米・アジアにて複数のストリーミングサービスから配信されていて、開始以降様々なジャンルから対応楽曲が配信されています。

ソニーの「A Sony Collaboration Series」というキャンペーンの中で、ソニーミュージック・エンターテインメント(SME)の大人気ラテン系ボーイズ・グループCNCOが、「Beso」という楽曲で360 Reality Audioとコラボをしています。
また下記の『Music.com』というサイトにはこのフォーマットで制作された楽曲が準備されています。どちらのサイトも個人最適化する前の“標準的な”疑似的体験になりますが、360 Reality Audioがどのようなものかを感じることができると思いますので、ぜひお試しください。

5. 『360 Reality Audio』対応のライセンスに関して

エコシステムの中で、360 Reality Audio 楽曲を楽しむことができるコンテンツやサービス、ハードウェアを充実させていくことも重要です。ここでは対応のコンテンツやサービス、ハードウェアを検討したい企業様向けに、ライセンスに関する情報も合わせてご説明したいと思います。
360 Reality Audioフォーマットは、国際標準であるMPEG-H 3D Audioに準拠することにより、幅広いサービスや商品への対応を目指しており、欧州最大の研究機関フラウンホーファーIISの協力のもと、パートナー企業様に対しライセンスを開始しております。現在、前述のコンテンツ制作ツールのソフトウェアライセンス提供に加え、配信サービスやハードウェアに対するライセンス提供もご用意しております。
360 Reality Audio に対応したミュージック配信サービスでは、360 Reality Audio にエンコードされたコンテンツをAndroidやiOSといったスマホ上のミュージックアプリ上で再生するために、ソフトウェアの実装が必要となります。360 Reality Audio Music Format に対応した Decoder / Renderer / Virtualizer および 360 Reality Audio 対応ヘッドホンからの個人最適化パラメータ受信機能を実装することにより、今までにない臨場感のある音楽体験をユーザーにお届けすることができます。360 Reality Audio の楽曲配信を検討されている配信会社様に対しては、これらのソフトウェアをライセンス提供しております。

360 Reality Audio に対応したサウンドバーやスピーカーでは、 360 Reality Audio Music Format に対応した Decoder / Renderer / Virtualizer の実装および、ストリーミングサービスを受信するための Cast機能を実装することにより、自宅のリビングルームで臨場感のある音楽体験を実現することができます。
スピーカー商品の検討をされているハードウェアメーカー様に対しては、それらを実装するためのソフトウェアをライセンス提供しております。また、音質テストをクリアした商品では360 Reality Audioロゴを使用することができます。

今後、より広いサービスおよびハードウェア商品への対応を予定しております。開発者様向けの360 Reality Audioライセンスに関しましては以下のURLをご参照ください。
https://www.sony.net/Products/360RA/licensing/

6. まとめ

以上、360 Reality Audio についてご説明してきました。日本ではまだサービスが開始されていませんが、一日も早く皆さんが 360 Reality Audio を体験できるよう努力していきますので、もう少々お待ちください。サービス開始が確定した際には、改めてお知らせしたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

参考文献

なし

執筆者プロフィール

横山 達也(よこやま たつや)
ソニー株式会社入社後、テレビ、ホームネットワーク商品に関する商品企画を担当。イギリスに10年間赴任し欧州デジタル放送の導入を推進。現在はオーディオ事業に関するパートナー戦略およびライセンスビジネスを担当
小室 弘行(こむろ ひろゆき)
1991年ソニー株式会社入社。これまでスーパーオーディオCDやハイレゾオーディオの導入を担当。特にコンテンツ制作の面からレコード会社やスタジオ・エンジニアへ推進。現在は360 Reality Audioの国内外での導入を担当している