第4回・1999年の音の匠

第4回 音の匠を紹介します
音を通じて社会あるいは文化に貢献されている団体あるいは個人を「音の匠」として顕彰し、 音の重要性を広く認識してもらおうというのがその趣旨です。

松下 和生氏

社団法人日本ピアノ調律師協会会員

松下和生氏は1947年熊本の生まれ。 1966年に福岡の松本ピアノに調律見習として入社し、調律の仕事をスタートしました。 その後杵渕ピアノ、松尾楽器商会などを経て1998年に独立。以降フリーの調律師として幅広く活躍されています。 多くの楽器は演奏者自らがチューニングあるいは手入れをするのが一般的です。 その中にあって楽器の王様ともいうべきピアノは専門家が調律するという、異色ともいうべき存在です。 このことは逆にピアノがいかに高度なメカニズムをもっているかを証明するものです。 調律は単に音階を正確にセットすることに止まらず,演奏者の要求に応じて微妙な音色に仕立てるといった高度な技が要求されます。 ピアノはご承知のように低音弦を除き、3本のピアノ線が一組になりそれをハンマーが叩いて発音する仕組みが基本になっています。 弦は約240本あり、その1本1本をチューニングハンマーを使って弦をゆるめたり締めたりしながら音階を整えること 以外に3本1組の弦の1本1本をそれぞれ微妙にセットして演奏家が求める音色に仕上げるという、 極めて高度な作業が要求されます。調律に用いるのはさきほどのチューニングハンマー以外には 音叉(例:442Hz)を用いるのが基本で、きわめてシンプルな道具だてのみ。 それ以外は長年にわたって会得した経験をもとに調律をするわけです。 演奏家が求めるものを聞き取り、それを咀嚼して実際のピアノの音などに反映させることも重要な、そして難しい技になります。 ちなみにピアニストの小山実稚恵氏とは十数年以上のお付き合いになるということで、 こうした緊密な関係が演奏にも反映し、演奏家ともども高い評価を得る大きな要因になっていることと思われます。 なお同氏が調律をよくするピアノのひとつ、スタインウェイについて「世界中で使われるだけのことはあるパワーと ピアニストによる音色の変化をよく表現してくれるオールマイティなもの」と語ってくれました。