202306/25

「高柳欽也さんトークショー」
@ OTOTEN2023

OTOTEN2023の中で開催された、学生向けセミナー「学生の制作する音楽録音作品コンテストについて」の高柳欽也さんをお迎えしてのトークショーの内容を掲載します。

開催日時:2023年6月25日 (日) 14:30~15:30
開催場所:東京国際フォーラムG405

出演者(敬称略)

末永「ではこれから、第2回「学生の制作する音楽録音作品コンテスト」で、優秀企画賞を受賞されました高柳欽也さんをお迎えして、トークショーを開催したいと思います。今日はコンテストの審査員である名古屋芸術大学の長江和哉先生、それからアシスタントに第6回のコンテストで優秀録音技術賞を受賞されました岩本双葉さんにも参加してもらい、私、日本オーディオ協会・専務理事の末永が司会進行を勤めさせていただきます。ほんの少しの時間ですが、お楽しみください」


トークショーの風景

末永「今日のゲスト、高柳さん! 高柳さんが受賞された時の表彰式の様子をスクリーンに映しておりますが、だいぶ若いですね。この写真、何年前ですかね?」

高柳「若いですね~~。8年ぐらいなりますかね?平成27年なので」


高柳さんが受賞された時の表彰式の様子

末永「長江先生、覚えてます?」

長江「これ私が撮った写真なんですよ」

末永「ああ、そうだったんですね」

長江「何年前か分からないですけど、うーん、それぐらい前でしょうかね」(一同笑い)

末永「この頃は、目黒雅叙園で音の日のイベントをやっておりまして、そのイベントの中で、コンテストの表彰式をやっていたのですが、金屏風とかあって、おごそかな雰囲気ですよね」

高柳「金屏風には、緊張しました!(笑)」

末永「ではですね、高柳さんをちゃんと紹介する前に、高柳さんがどういう方なのかを分かってもらうために、一曲再生したいと思います。再生をお願いします」

(マカロニえんぴつ『なんでもないよ、』を再生)

末永「はい、フェードアウトして下さい。会場の皆さん!この曲知ってる人??」

(たくさんの手が上がる)

末永「さすがみんなよく知ってますね、マカロニえんぴつ! マカえんって、言うんだっけ? 今日はマカロニえんぴつのエンジニアをされております<高柳欽也さん>に来ていただきました。この会場に来た皆さん!このセミナーを申し込んで、良かったでしょー!ねぇ~~!」

末永「では、アシスタントの岩本さんから、高柳さんの紹介をお願いします」

岩本「はい!高柳さんは私の大学の先輩で、洗足学園音楽大学の音楽音響デザインコース録音専攻を卒業されてから、レコーディングスタジオ「音響ハウス」を経て、現在はフリーランスで活躍されています。先ほど「なんでもないよ、」が流れて、みんなの嬉しそうな顔が見えていましたが、そんなマカロニえんぴつのエンジニアを担当されておりまして、「なんでもないよ、」は、第63回レコード大賞最優秀新人賞、翌年の第64回レコード大賞でも優秀作品賞と2年連続で受賞されたというスゴイ経歴をお持ちであります」


マカロニえんぴつのメンバーと高柳さん(中央)

岩本「これはマカロニえんぴつのメンバーと仲良く撮っている写真ですね~」

高柳「歌録りが終わった後の写真です」

岩本「金髪なので、今とは雰囲気が若干違いますけどぉ(笑)、なかなかボーカルの「はっとり」さんのこの表情は、見ることがないんじゃないかな~と個人的には思うんですが・・・。他にもYouTuberの「松浦航大」さんや「虹色侍ずま」さんなどのレコーディングも担当されていて、最近は自宅のスタジオにえっとー、エクリプス?でしたっけ」

高柳「イクリプス、卵みたいなスピーカーですね」

岩本「そのスピーカーで、ドルビーアトモスのシステムを組んで、日々勉強とか制作をされているんですよね?」

高柳「はい」


映像作品「空想の大陸 -記憶の岩-」

岩本「またアトモスにとどまらず、いろんな立体音響にも積極的にチャレンジされておりまして、最近では「原千夏」さんの8chキューブによる映像作品「空想の大陸 -記憶の岩-」という作品が、野村美術賞を受賞し、東京芸術大学の中に美術館があるんですけど、立体音響として初めてそちらに収蔵されることとなりました。
マカロニえんぴつのレコーディングをしたり、立体音響をやったりと、商業的な音楽または芸術的な側面がある音楽のアプローチを模索しながら、これからも音と人とで選ばれるエンジニアになりたいと欽也さんはよくおっしゃっております。そしていつかはレコーディングエンジニアといえば《欽ちゃん》と呼ばれるようになりたいとおっしゃておりました。私からの紹介は以上です」

高柳「ありがとうございます」

末永「改めて、すごい方だなぁということがよく分かりましたが、それだけに今日は色々なお話を聞きたいと思いますが、まずは楽しくやりましょう!」

高柳「よろしくおねがいします!」

末永「ついでといってはなんだけど、ちょっと岩本さんもここで自己紹介しておきましょうか?」


岩本さんが受賞された時の表彰式の様子

岩本「うわ、この写真出すんですか、恥ずかしい! 私も洗足学園音楽大学の音楽音響デザインコース録音専攻を卒業し、トラストネットワークに入社して、長野朝日放送の音声業務を担当しております」


岩本さんの仕事風景

岩本「音声業務の中でも、主にMAですね、この写真のような感じで、パソコンに向かって音を整えたり選曲をしたりと自社制作番組のことをやっております」

末永「ということで、二人とも立派に社会で活躍されているということで、賞を獲った人たちがしっかり成長していただいているというのは、ホントにうれしいことです。
実はですね、このコンテストは非常にオーディオ協会としても力を入れている活動でしてですね、小川会長の言葉を借りれば、このコンテストはプロ目指す皆さんにとっての《登竜門》になって欲しいということなんです。登竜門っていうぐらいなのでね、みんなに目指して欲しいなという、そういう思いもあって、できるだけたくさんの人にコンテストのことを知ってもらいたいな!ということで、今日もこういった時間で、皆さんにどんどんチャレンジしてもらうためのきっかけを作っていきたいなぁと思っています」

長江「そうですよね、わたくしも名古屋芸術大学というところで音楽を録音することを教えてるんですけど、学生は授業を受けて作品を作るってことをしてるんですが、学校だけじゃなくて学校の外に、こうやって応募する機会があって、そこで自分の作品がどういう風に評価されるか、っていうことにチャレンジするのは、簡単なようで学生にとっては結構難しいんですよね。でもまあ、嬉しいことにみんな頑張ってくれるわけですよ。
また、ここに今日いらっしゃる皆さんも、トライしてみようかな?!という思いで、多分来てくださっていると思うんですけど、そういう機会があるってホント素晴らしいことで、オーディオ協会の小川会長が強くこのコンテストを推進していこうとおっしゃっていることは、録音を学ぶ学生にとって、大いにに励みになる機会だと思います」

末永「長江先生、ありがとうございます。運営サイドとしましても、しっかりとサポートしていきたいと思っております」

末永「実はですね高柳さんには内緒でですね、これからサプライズな動画を上映させていただきます」

高柳「え、これ本当に聞いてないですよ・・・ええ?なんですか??」


高柳さんが表彰状を受け取るシーン

末永「当時の校條会長から表彰状を受け取っているシーンでございます」

高柳「おぉぉ、金屏風の前で受け取りましたねー」

末永「金屏風の前って、緊張するよねー(笑)」

高柳「緊張しましたよー、 あ、ほら!ガチガチに緊張してるじゃないですか!」

末永「こうやって賞を取られてから8年いろいろな活動をされているということなんですが・・・」

末永「高柳さんからですね、学生時代の写真を提供していただきました。これ、かっこいい写真ですねー。バンドでドラムを叩いていたんですね?」

高柳「はい!もう大学のときはドラムもギターもベースも歌も全部やってました」


学生時代の写真

末永「それから、もう一枚は、これはニューヨークですかね?」

高柳「はい、初めてAESに行ったときのニューヨークですね。ブロードウェイでミュージカルを見てきた後ですね」


学生時代、ニューヨークに行った時の写真

末永「このように学生時代に色々と音楽に携わる活動をされてたんだと思うんですけども、そもそも、このコンテストにチャレンジしよう!というきっかけは、どんな感じだったんでしょうか?」

高柳「僕が大学生の時にお世話になった深田晃先生に、このコンテストを紹介していただきまして、それで応募しました」

末永「なるほど、とは言いながらね、第2回のコンテストですよね、いくら敬愛する深田先生からやってみたら?と言われても第2回ってその前の年に始まったばかりのコンテストで、情報があまりないわけじゃないですか・・・」

高柳「何もなかったですね」

末永「それで、どうやってチャレンジしたんですか?」

高柳「そのときはこんなのがあるよと聞いたら、「あ、じゃ出します!」くらいの、いい意味で、なんか無鉄砲だったのかなと思います。表彰式の時に「あ、第2回なんだ!」くらいの感じで、別に回数とか、あんまり関係なかったかなぁと」

末永「あー、なるほど、無鉄砲ね! 勢いが大事な時はありますよね」

高柳「そうですね、在学中も学年末テストみたいな折に、自分でミックスして、それを先生たちに聞いていただいて、プレゼンテーションをするっていうのがあるんですけど、なんかそこだけは割と僕はプレゼンが大好きで、もっと厳しい意見が欲しい!みたいなのがありました」

末永「ほお、学校でもそういう機会があるんですね」

高柳「先生からキツイこと言われるんで、みんなはこれ嫌いなんですけど、でもそれが気持ちよかった!というか、本気でこう作品を1年間かけて作って、それを一生懸命プレゼンして、で「こんなんじゃ全然ダメだね」とか言われたとしても、これがたまらなく好きだったというか、それで、その延長線という感じで、先生以外の方々にも聞いていただけるチャンスがあるなら、やるしかない!と思いまして」

末永「それはねぇ、大人の側からみると、なんていい学生なんだ!と思っちゃうんですけど、なかなかこんな肝の据わった学生さんは居ないんじゃないかと思いますが、長江先生、どうですかねぇ、今のお話を聞いて」

長江「褒めてもらいたいと思う人の方が多いと思いますけど、なかなか、自分の良くない所を指摘してもらいたい、客観的に意見を聞かせて欲しいと思うのは、素晴らしい性格ですね。
でも、自分が作った音楽を他の人に聞いてもらうという場合には、常にそういうことがおきえますよね。いろんな声に耳を傾けたからこそ、今こうやって、マカロニえんぴつの録音をして、世間の評価もされるようになったんじゃないですかね、素晴らしいです」

末永「賞を獲得するというのは、なかなか大変なことで、さっき無鉄砲みたいな話もありましたけど、気合だけじゃ、なかなか賞に辿りつけないと思うんですよね」

高柳「そうですね。大学の試験と一番違った点が、さっきもチョロっと言ったんですが、プレゼンテーションが大学にはありますが、このコンテストにはないので、音と資料だけということなので、全く違うんですよね。もうそこが一番このコンテストの難しいところだなぁと思いまして、どうやって伝わる資料をまとめあげようかな??というのが一番考えたところです」

末永「そういった苦労の甲斐があって、というか、工夫の甲斐があって、企画制作賞を受賞されたわけですけれども、どうでしたか?受賞された時の気持ちは」

高柳「いやぁ、最優秀賞が欲しかったですねー!企画は褒められたけど、音は良くなかったのかなぁ??とか思ったりして、素直に受け止められなかったもので・・・」

末永「岩本さん、高柳さんって、日頃からこういうストイックな人ですか?」

岩本「そうですね、高柳さんはAESにトータル3回、ニューヨークに行かれているみたいな話は聞いていたんですが、大学の先輩と言っても大学では被っていないんで、ストイックな話は、今日初めて伺ったなぁって感じですね、すごいですね」

末永「そういう高柳さんの性格が少し見えてきたところで、ここでちょっと受賞された曲を聴いてみましょうかね。本当はですね5.1chで収録をされた作品ですが、この会場では2chになってしまうんですけど、雰囲気は分かってもらえると思うので、聞いていただきたいと思います。このダウンミックスも、高柳さんにやっていただきました。ということで、再生をお願いします」

(受賞作品視聴『煌めきと明日』を再生)
受賞曲は、こちらで再生できます(https://www.youtube.com/watch?v=gUctmdbTm2k

末永「長江先生、久々に聞いていただいて、どうですか?」

長江「後でどういう風に録ったのかという図が紹介されますけど、それを見なくても、どういう風に楽器が並んでるのかなって、想像出来そうですよね。こちら側にね、サックスセクションがいて、こちら側に・・・そういう、色々な音楽のコール&レスポンスが見える様になっていますよね」

末永「この作品は、どんなところにこだわって作られたのか、お話ししてもらえますか」

高柳「これはですね、大前提としてマイクがすごい少なくて、スポットマイクがなかったので、その場で大きい楽器はマイクに対して遠くに行ってもらって、音の小さい楽器、例えば木管とかは近くに来てもらう、という音量のミキシングを録音の段階で終わらせようというコンセプトが最初からあったので、それをやりつつ、じゃあ、ソロの楽器の人は立って一歩前に来てくださいと、ずっと奏者とプランニングを練って録ったようなもので、見えないこだわりが結構ありますね」

末永「演奏者にそこまでさせたのですね?」

高柳「いやー、もお土下座ですよ!(笑) 今日は録音するとしか聞いてないんだけどー?!みたいな人たちに、はい色々やります!すみません!って・・・」


笑顔でエピソードを話す高柳さん

末永「バランスを取るだけじゃなくて、小さい音まで逃さないぞっていう強い気持ちの表れなのかなと思いますが」

高柳「そうそう、ドラムもその場にいたので、木管の小さい音を消えちゃうのはもったいないなって」

末永「土下座をしながらも、まあ順調に進んだように聞こえますけど、思ったより大変だったことはありますか?」

高柳「録音の時は気合もあったのでスムーズに行えたのですけど、ミックスの段階で、そこまで詰め込んで録音したばっかりに、ミックスでやることがなくなりまして。フェーダーを上げると楽器じゃなくて部屋全体が大きくなっちゃたりとか、気持ちよくなるリバーブをつけようとすると、リアルっぽさが無くなって、EQで上げたり下げたりすると、この楽器は良くても、この楽器は悪いとか、結局、あれこれと沢山ミックスしたけど、良いものがどれなんだろう?みたいな迷いに入ってしまったことを覚えていますね」

末永「結局リバーブはつけなかったということなんですよね。審査員の先生方の評価って覚えてます?」

高柳「えー、厳しい意見しか覚えてないんですけども(一同笑い) 「何もしないのが一番良いと思って提出しました!」と言ったら、「何もやらないっていうのは君のエゴなんじゃないかな。ホントはもっとやれることがあったんじゃないかな?」といったことを言われましたね」

末永「実は、審査員の先生のコメントを動画で確認してきたのですが、口調はもうちょっとまろやかな表現ではあったんですが(笑)、迷った時は自分一人で判断するのではなくて、先輩や仲間たちに相談するとか、そういった人の意見を聞くことも大事だよ ということが言いたかったんだと思います。まあとはいえ、表彰式なんだから褒められるのかと思いきや、ベテランの先生からお説教を受けているような様子だったから、実は私は、この当時はまだオーディオ協会の人間ではなかったんですが、この場に居てですね、賞を獲った人なのに、こんなに厳しくコメントされるのか?!と雰囲気を感じていました。でも、先ほど厳しいこと言われるのが好きだっていう話を聞いたのでね、まあなんというか、厳しいこと言われて成長する人だということらしいので、表彰式で厳しく言われていたのも、良かったのかなと安心しました(笑)」

高柳「たまらなかったっすね~~! 緊張感も半端なかったですし」

末永「長江先生もね、この時に非常に良いコメントをされていましたけど、先生覚えていらっしゃいます?」

長江「だいぶ古い話なので、しっかりは覚えてないんですけど、そのまま録った音が良い時もあれば、そこで聞こえているものとはちょっと違うんだけど、例えばリバーブをつけたり、少し音質を変えたり、バランスを変えたり、って、そちらの方がより音楽的になって、リスナーにとって、そっちの方がいいという時もありますし、そういうことに迷いながら作品を作っていくことが音楽録音の醍醐味だから、これからも頑張って下さい!といったコメントをしたような気がします。きっと、卒業されてからのキャリアの中でも、沢山その様なことも感じましたよね?」

高柳「はい、感じます。さっき聞いていただいた「なんでもないよ、」も、なんかリアルな表現の仕方をどうしようかな?みたいな、まったく同じような悩みで、シンセサイザーのピアノ音源をDIでライン録音するのではなく、わざと一度シンセピアノの音を2台別々のギターアンプから生ピアノの音量感で鳴らして、ピアノのルームマイクを立てるような気持ちでオフマイキングをしたのが曲頭イントロの音なんですけど、そういうのはまさにやっていたことにつながっているのかなーというところがありますね」

長江「アコピなのかエレピなのか?」

高柳「シンセサイザーですね」

長江「シンセのピアノをギターのアンプから出して?」

高柳「はい、本人たちが普段使っているギターアンプから出して」

長江「ステレオでギターアンプから出して?」

高柳「シンセがステレオアウトだったので、ステレオでアンプから出して録音しました。ピアノの音が録りたいというより、ピアノが鳴っている部屋を録りたかったのです。スタジオも鳴りが素晴らしかった。イメージは静かな部屋の中で、1人ピアノを弾きながら歌っている雰囲気、そのルーム感をオフマイクで。リスナーが同じ部屋で聴いてる感覚にしたくてORTF方式に加え、挑戦的にリボンマイクを使いました。もう1つのこだわりで、ギターのアンプは音の指向性が強いので、オフマイクに直接音が入らないように外側を向けて部屋全体に音を回すようにアンプを置きました」

長江「普通のピアノではないっていうのは、伝わってきましたよね。過去を遡るようなイメージで」

高柳「こうやって言うと、皆さん確かにちょっと違う音なんじゃないかと思っていただけると思うので」

岩本「「なんでもないよ、」の最初のボーカルの息遣いを使用したり、そういうところは、高柳さんのこだわり、細かい所まで手掛けるっていうのがあると思うんですけど、それが当時の作品にもあると思って、8年前の演奏を久々に聞いて思うことあります?」

高柳「よく一生懸命やったなと。サラウンドなんてやったこと無かったので。自分が必死になっている熱量は感じていましたし、今聞いても、いいものはあるなぁ!と思ってて、今の自分は学生の時よりマイクをどこに立てたら良いかとか分かるようになってきたんですけど、分からない時なりのすごく集中していた音がするというか、完成度は高くなくても、手を抜いてる部分はないなぁと」

岩本「無鉄砲ながらにがむしゃらにやられてて、熱い部分があるんだなというのは」

高柳「逆に今、ちょっと忘れかけているパッションかもしれません。普通に、録音を日々しちゃってるので、そのパッションは大事にしたいなぁと思いますね」

岩本「これを機にパッションを!」

高柳「そうですね」

岩本「高柳さんって、すごい人だな!って思うのは、先輩や後輩、同期、他コースの方々とのつながりがスゴイんですよ。なんか高柳さんの名前出したら、あー、あの音デ(音楽音響デザインコース)の、みたいなホントに卒業してからも名前知られているぐらい有名な方なんですけど、そういう人脈で、録音をする際に相談されたりしたんですか」

高柳「日頃から皆さんに助けていただきまくりでした。ただこの作品は作曲家本人がジャスコースではまた顔が広くて、既にアーティストなど全て揃えていただいた後に、録音で私が加わった形だったので、基本的にはもう録音のコンセプトからこういうのがしたいんだ!と言うのを彼女に全部説明して、作品の内容とか、どうしようか?みたいのを落とし込んでいって、全員に共有してという流れ。この挑戦的な録音に「面白い」と言ってくれた作曲家がいなかったら、ぜったい出来なかった録音かな?と思いまして、それに加えて土下座をしてお願いした演奏者の皆さんのおかげですね」

岩本「そうですね」

高柳「譜面にあなたちょっとここで立ち上ってくださいって」

岩本「そんなこと、なかなか譜面に書くことではないですからね(笑)」

末永「で、みんな素直に聞いてくれたんですか?」

高柳「それが、聞いてくれたんですよぉ! 低姿勢だったからですかね。ホントにエンジニアですか??みたいな。もちろん、お菓子とか持って行きました!」


企画書の抜粋

末永「それは土下座の甲斐もありまして、良かったでございますが、今ちょっと話の中にありました楽器のレイアウトですが、企画書の抜粋という形で、ここに映させていただいたんですけど、これ皆さん、見てわかります?左の赤いマーキングがマイクで、周囲に楽器を演奏する人たちがいて、右の上の図に書いてありますが、マイクの位置は1メーター70ぐらいの所にあるような形にした、ということなんですね、パートによってはこのマイクに近づくように立ち上がってください!みたいなこともやったって話ですよね」

高柳「はい、その通りです」

末永「この図を初めて見た時に、図の中にパッションを感じるものがありました。企画書がしっかり書けている人の作品っていうのは、作品を聞くとですね、良くできているということがほんとに多いんですけど、典型的にそれを感じる企画書でした」

高柳「ありがとうございます」

末永「ちょっとこの絵ではわかりにくいという人のためにですね、これを写真にしたものを用意してもらいましたので、高柳さん説明してもらっていいですか?」


演奏者のレイアウトとマイクの配置

高柳「懐かしいですね。このセッティングが終わった後に演奏者がぞろぞろやってきて、私が土下座をするんですけど」

末永「どこで土下座するの?」

高柳「円の中心で・・・(笑)」

末永「マイクが5本あって、5ch分になるわけで、このマイクのど真ん中に座って演奏を聞いてるイメージに作品を作ったんですよね」

高柳「はい」

末永「各マイクの方向にいろんな楽器が揃っていると。レフト、センター、ライト、それから後ろのライト、レフト、あとピアノとサックスのところに補助マイクが立てられているのが企画書の中に書かれていまして、正面はドラムスの方を向いているという感じですね」

高柳「それもその、再生の最終段階を考えながらどの楽器を正面にしようかみたいなところからスタートしてるので、いろんな楽曲を聞いて、ドラムは真ん中でしょうということで・・・この中心に作曲家の方にも入っていただいて、クリックとかは無しで作曲家に真ん中でタクトを振ってもらいました。そうすると作曲家が聞いている音場と同じものを皆さんが聞けるみたいなのが、結構大事なポイントになっていまして、えーこのサラウンドの形とか広さを決めたのも、洗足の地下にサラウンドの再生を聴ける部屋があるんですけど、そのスピーカーのだいたいの距離感と同じようなところにマイクを立てて、まったく同じ様にならないかなー?というようなことを考えて工夫をしています」

末永「これ、長江先生どうです?」

長江「ほんとに良くできてますよね、一番最後にお話しされたスピーカーの距離と同じようにするっていうのはね、ポリヒムニアというところのジャン=マリーという録音エンジニアはポリヒムニアアレイっていうサラウンドのアレイを作ってるんですけど、ほんとにこのスピーカーの並びと同じにして、間隔も大体3メートルぐらいのLRの間隔でオーケストラを録るメインアレイを作ってるんです。まさに同じような制作、あとその音量をね、一歩前に出て演奏するとか、こういうのも、マイクの録音になる前の、アコースティック録音っていうのが、今から100年以上前にあったんですけど、その時の写真を見ると、収音ラッパに近い所には弦楽器が居て、遠い所にトロンボーンとかが居て、うるさい楽器は後ろの方に居て、ちっちゃい楽器は前の方に居るというので、実際録音されてる写真が今でも残っていますので、それと全く同じアイディアだなと思いました」

末永「作品の完成形をイメージして、そこまでやられたということですよね。こういう周囲に楽器が並んで録音していくっていうスタイルは、結構あるものですか?」

長江「あると思います。ノルウェーの2Lというレーベルのモルテン・リンドバーグがメインマイクを取り囲むような感じで楽器を配置したことがあるんですけど、彼もその、音楽がどういう音楽だから、ここにはこういう楽器が来るべきだ!っていうことをプレゼンテーションしてるんですが、今と同じでドラムが横から聞こえてきたら変だから、前にいるべきだとか、そういう音楽がまずあって、その音楽をどうやって聴かせたいのかということを、モルテンは、その作曲家が生きているのであれば必ず作曲家と話をして、あなたはどういう音楽を作りたかったのかっていうことを聞くところからまず始めるんだって言っていますし、亡くなった作曲家は、スコアを読むしかないって言ってるですね。凄く似てると思います」

末永「無鉄砲と言いながら、実はものすごく良く考えていますよね」

長江「高柳さんは大学で、音楽と録音を勉強したからだと思います。録音だけじゃなくて、音楽だけじゃなくて」

高柳「ほんとにその通りです。分かっていただいてうれしいです」

末永「実はね、表彰式の中でも、やっぱりそういったマイクの立て方ひとつも、すごい工夫がされているということは審査員の先生に褒められていまして、そういう本質を知った企画力というのは、企画制作力が認められて、賞に繋がったんじゃないかと思います」

高柳「ありがとうございます」

末永「今ですね、プロのエンジニアをされているわけですが、あの頃の自分を振り返ってみて、どんな感じですか?」

高柳「頑張ってましたねー。頑張ってたと思いますし、よく遊んでたなと思います。この作品を作った時は、ほんとに集中していたと思うし、今も毎回ではないんですけど、すごく集中した時は、狙い通りのマイクの音が録れる時があって、そんな時って、マイクの音が見えるみたいな感覚があるんですけど、こうなってこうなるんだ、みたいな。それでスピーカーから聞いて、あ、その通りだ!みたいなことがたまにあってですね。
メインマイクを5本立てる時も、演奏者の方を見て、あぁここで立てようみたいな、パチッと決まるみたいなのがあったので、まぁ集中してたなと思うのと、学術的なことにも常に目を向ける努力をして、勉強し続けていた4年間だったので、そういうところが実を結んだんですかね。
先ほど仰っていた蓄音機の距離感の話とかも、どっかの資料で見たことがあって、がむしゃらに録音し続ける4年間というよりかは、割と知識も身に付けた4年間だったのは、よく頑張ったなと思います」

末永「賞をもらって、なにか励みになったといったことはありますか?」

高柳「すごくあります!未だに自分自身が作り出している音が正しいのかを、探求してるんですが、コンテストで賞をいただいたというのは、自分自身の考え方が間違っていなかったという評価をしていただけたことで、この企画は良い意図がありますね!みたいなことが人に伝わったというのは、このまま努力していく、いい道筋になるという自信になりました。
あと、賞を獲ったというのが、誰かに話すと、真面目にやられてたんですね!みたいな、一個のプロフィールになっているので、これは獲っておいて良かったなぁと思っております」

末永「先生から何か、質問とか」

長江「やっぱり卒業して8年? 先ほど、マカロニえんぴつの音楽をすごくワクワクして聴きましたけど、冒頭のピアノもそうですし、歌が入ってきてからのブレスの感じとかも、ブレスのテイクを選んだり、ブレスの音量を上げたり、色々されてるんですよね。そういうのが、リスナーになにを伝えたいのかっていうのがね、まあ今は聞かないですけど、何か伝えたいものがあるから、このブレスのテイクを選んで、クリックゲインでちょっと上げたのかなと」

高柳「さすが、ちゃんと伝わりましたね!」

長江「そうしないとこうは聞こえてこないんで、それはさっきお話した、自然にマイクをここにね、ラージダイアフラムコンデンサーマイクで録っても、あーはならないわけなので、ブレスをちょっと上げることによって、歌っている人の気持ちとか歌詞の意味が出てきたりとかすると思うので、そういうコントロールがたくさんあの曲の中に入ってますよね。そういうのが、おそらくこのコンテストに出す中で、自分で企画をして作曲家と話をして、ほんと土下座したかどうか分からないですけど、演奏者にどうやって頼むか?ということで、案外そのフェーダーを上げ下げするよりも、演奏者に頼んだ方がいい仕上がりになることがあるんですよね」

高柳「はい、そう思います」

長江「もうちょっとちっちゃい方がいいかな?と思いながら、何も言わずにフェーダーを下げるより、ここは電気的に下げるより、ちょっと弱く演奏した方がいいから、そういう風にしてくださいと言った方が良くなったり、そういうのを、学生の頃から分かっていたというのがすごいです」


会場の学生の皆さん

末永「そろそろクロージングの時間になるんですけど、高柳さん、今日これだけの学生さんが色々なお話を聞いてくれましたけど、コンテストにチャレンジした方がいいですよというメッセージをお願いします」

高柳「コンテストどうですか、挑戦したくないですか? 敷居が高いですかね? 迷っているぐらいなら出してしまった方がいいと思います。協会の方々を前にすると、出しちゃえばいいじゃん!と言うのもなんですが、出すからには資料を仕上げなきゃいけないとかミックスを終えなきゃいけないとか、完成させるってことなので、それ自体に一個一個意味があるなというのと、仮に入賞なんてしてしまったら僕のように、一生プロフィールとして書けるわけですよ。入賞しましたよ!みたいな。オーディオ協会さんのことは業界の人ならみんな知っているので、「あっ、すごいですね!」ってどこに行っても言っていただけるので、ほんとありがたいです。
賞をもらった人同士でコミュニケーションも出来るし、こういう機会に仲間と集まる場をオーディオ協会さんが作ってくれるし。なので、ちょっとチャレンジしていただきたいなと思います。そしたらどこかで、僕と話す機会が出来るかもしれないので、ほんとに一人一人話したいぐらいなんですけど、そんな感じの軽い勢いで、是非応募してみてください」

末永「是非、皆さんも高柳さんの姿を自分の将来にかぶせる様な感じで、色々と頑張ってもらえたらなぁ!と思います。最後に長江先生、会場にきた学生さんたちに何かメッセージをお願いします」

長江「ほんとに沢山の皆さんに集まっていただけて、このコンテスト自体が注目されているということを私自身も感じています。このコンテストの1回目から私も審査員に加わらせていただいてるんですけど、年々その、作品のクオリティーが上がってきていまして、今DAWもProToolsを始め、様々なDAWがあって、それ自体はもうほんとに誰でも使えるようになったと思うんですよね。それを使って、どういう音楽を伝えるか?というのは、やっぱりみんなの考えがないと難しくて、例えば自分がライブを見たり、行って演奏を聴いて、この人の演奏凄く良いなって、私だったらこれをこういう風に録ったらより多くの人に音楽の良さが伝わるんじゃないかな?みたいな、そんな発想が良い作品に繋がるんじゃないかと思うんですけど、何か機材を使って録音したいっていうんじゃなくて、何か素晴らしい音楽をまず探してみて、もしかしたら皆さんの同級生とかでね、学校でバンドやってる子とかいるかもしれません。この子の演奏いいよね!という子が居たら、それをどうやったらより多くの人がもっと良いと思ってもらえるだろうか?と考えてみて、例えば楽器の編成ですよね、ピアノソロが良いのか、途中からドラムとかベースが入ってくるのが良いのか、どういうものが人に感動を与えるのか、そういうところも本来はアレンジする人とかが考えるのかもしれないですけど、そういうところもどんどん作曲者や演奏者と話していって、こうするといいんじゃない?みたいなのができるのが、学生の良い所だと思うんですね。それぞれで本当に素晴らしい音楽を私だったらこう伝えるって、そういう考えを僕たちに、ぜひぜひ伝えていただけるような感覚で、コンテストに応募していただけたらと思っております」

末永「ありがとうございます。とにかくね、完成させるっていうのは、すごく大変な労力が要ることなんですけど、それがすごく良い思い出になるので、ぜひぜひチャレンジしてもらいたいな!と思います。日本オーディオ協会も、皆さんの頑張りをしっかりとサポートさせていただきます。
本日は、高柳さん、貴重な時間をありがとうございました。それから長江先生も岩本さんも今日は本当にありがとうございました。会場の皆さん、高柳さんに感謝の拍手をお願いします」

(会場拍手)

末永「これからもいい作品どんどん作っていってください」

高柳「頑張ります」

末永「ありがとうございました。それでは以上でトークショーを終わります」