学生の制作する音楽録音作品コンテスト

第3回 2016年優秀音楽作品賞

Strasbourg St.Denis5.1ch 48kHz 24bit


※音源は2chに変換されたものです

東京藝術大学 音楽学部 音楽環境創造科
松本 日向子さん

作品について

作品のコンセプトは?思いついたきっかけは?

ジャズの演奏において、演奏者が感じる一体感やグルーヴ感ごと録音・再現したいという思いから着想しました。私自身がジャズバンドでサックスを演奏していたのですが、ライブで演奏者として感じる一体感と、CD等で音源を聞く時の感覚が異なることに気づき、その違いを無くす方法はないか、と考えました。

制作時苦労した点・表現できた点・工夫した点は?

ジャズ本来のグルーヴ感や演奏者の一体感を得られるような録音およびミックスを目指し、主に2点について工夫しました。
1点目は、演奏におけるグルーヴ感を損なわないようにするために、マルチトラックレコーディングやテイクを繋げる編集は行わず、1つのスタジオで全員が同時に演奏をする、いわゆる“一発録り”を行なった点です。
2点目は、ジャズ特有の一体感を再現するために、あえて他の楽器との“かぶり”を感じられるようなマイクセッティングにした点です。

これらの工夫によって、リバーブ等をかけなくても空間を感じられる録音ができ、また、演奏における一体感やグルーヴ感を再現することができました。しかし、同じ空間で同時に演奏したために生じた“かぶり”によって、音の輪郭がぼんやりしてしまうというハードルもありました。ドラムの前に演奏者の視界を遮らない程度に吸音板を設置するなどの対処を行うことで、このハードルはある程度乗り越えられましたが、より工夫を施す必要があったと考えます。

作品の聴き所・アピールポイントは?

スタジオ録音の明瞭さと、ライブ録音のような一体感や空間を感じながらお聴きいただければと思います。

コンテスト参加ついて

受賞の感想をお願いします!

自分にとって挑戦的な取り組みであったため、そのコンセプトと音源を評価していただけて嬉しかったです。

参加のきっかけは?

過去に大学の先輩方が参加されていて、自分もチャレンジしてみたいと思い、応募しました。

制作時のエピソードはありますか?

最初に制作コンセプトを決めた際に、「そのコンセプトを達成するためには、5.1chサラウンドで制作したい」と考えたのですが、自分にとって初めてのサラウンド作品であったため、手探りの状態で進めておりました。
制作を進めるにつれて、サラウンドの仕組みやミキシング方法を少しずつ体得することができ、その後につながる体験になりました。

参加してみて良かったことは?

自分の今後の制作方針・考えをまとめるきっかけになりました。また、審査員の方々からの講評をいただくことで、具体的な改善点や新しい着眼点を得ることできました。さらに、これまであまり関わりのなかった他大学の方の取り組みを知ることができ、大変刺激的な経験になりました。

音楽制作をしてみて、音楽の聴き方は変わりましたか?

旋律や音色だけではなく、空間表現にもより着目して鑑賞するようになりました。

現役学生へコンテスト参加へのメッセージ・アドバイスをお願いします!

自分のスキルアップのためにも、同年代の他の人たちの作品を知るためにも、とても有意義なコンテストだと思います。また、プロの方々からアドバイスをいただける貴重な機会でもあるので、ぜひチャレンジしてみてください。

審査員評

  • 企画書に写真や図版が掲載され記述が丁寧。収録コンセプトが良く伝わった。
  • アレンジや音色の選択、楽器の配置が的確で、サラウンドとしての演出効果が出ている。
  • 多重録音や2chステレオの出力を22.2chに仕上げる残響処理、ディレイ処理など、制作の苦労がみえる。
  • フィールドレコーディングへのこだわりが感じられた。
  • とても広がって包まれ感があり、360 Reality Audioの良さをうまく使っている。
  • ストリングスに包まれる感じや上方のパーカッションなど、多彩な音像が好印象。
  • ミキシング時のリバーブ付加をより大胆にしても良いと感じる。
  • マイキングや録音空間の音響特性を利用した遠近感表現ができない不利は、演奏をスタジオや教室に置いたスピーカから再生してマイク集音するなどの工夫で補うことができたかもしれない。そうした何らかの工夫で、より奥行きのあるイマーシブ音声を作ることが出来ると、より高い評価が集まる作品と感じた。

JASジャーナル

第3回コンテストの概要や表彰式の様子、審査員の評価コメント等掲載しています。合わせてご覧ください。


JASジャーナル
2017年1月号(Vol.57 No.1)
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