学生の制作する音楽録音作品コンテスト

第5回 2018年優秀企画賞

戸塚WINDSレコーディング5.1ch 48kHz 24bit


※音源は2chに変換されたものです

日本工学院専門学校ミュージックカレッジ 音響芸術科
岡澤 朝輝さん
小形 花菜子さん
飯塚 菜央さん
岩坪 拓弥さん
櫛田 優理さん
永井 隆陛さん


左から:小形さん、飯塚さん、岡澤さん、永井さん、岩坪さん、櫛田さん

作品について

作品のコンセプトは?思いついたきっかけは?

吹奏楽の華やかで迫力あるサウンドを、間近で体感している指揮者視点で聴くことができる音源を制作したい、という思いつきや、他では聞いたことのない面白い音源にしたいという思いから、ステレオミックスと並行して5.1chでのMixも試みました。

卒業制作にあたり、「私が中高の6年間で触れ合ってきた”吹奏楽”というジャンルの音楽の素晴らしさを、何か手段を用いて不特定多数の人々に伝えられないか」という想いをかたちにしようと考えました。
”不特定多数の人々に”という点において、吹奏楽によるフラッシュモブを実施し、そこでご協力いただいた私の母校である戸塚高校吹奏楽部(以降戸塚WINDS)の宣伝も兼ねチラシの配布も行うことになりました。そのチラシにQRコード化した音源を貼ることでより気軽に吹奏楽のサウンドに触れてもらえるのではないかと考えました。
また、卒業制作の発表会がありましたのでそのために何か面白いミックスを作ろうということでサラウンドにも挑戦してみました。

制作時苦労した点・表現できた点・工夫した点は?

まず企画時点で何よりも大変だったのは、参加者が大人数であったことです。
演奏者は戸塚WINDSの1、2年生だけでも100人を超えており、ケータリングの準備や予算、日程調整や場所の確保など多方面で苦労しました。
高校生たちの思い出にもなればと収録人数を減らすことは考えず、演奏者第一で収録地が遠方になってしまう際にはバスのチャーターや保険の類まで念頭に入れていました。
またスタジオなどでのパートごとにダビングをしてのレコーディングは演奏者が慣れていないので、一日で収録を終わらせることを考えるとそれも無しに。
初めはホール収録を考えていましたが、それも日時と人数に見合う場所がなく断念。レコーディングスタジオも人数に見合う場所など到底無く断念。最終的に収録場所は戸塚高校内にある合奏室を使わせていただくことになり、使用機材は全て持ち込んで行うことになりました。

大人数ということでレコーディング時にもたくさんの苦労がありました。
実は当時、私たちの学校の文化祭とレコーディング日が被っていたんです。そのため学校からの機材の持ち出しに難航しました。
なるべく使用機材は少なく済ませようと指揮者の周りにセッティングしたMainマイク5本で大半の木管楽器の音を拾いつつ、要であるDrumsやベースラインのTuba、E.Bassやパンニングで遊びたいPerc.には楽器ごとにマイクを立て、その他の楽器は基本各セクションごとに立てました。それでも回線は38chに及び、学校の機材で賄えない分はレンタルしました。
多くの機材を扱うという点で、かなり気を使ったのは各機材の点検です。
当日使用するマイクやスタンド、スピーカーなどは正常に動作するか全て積み込む前に学校で実際に繋いでみて点検を行いました。これがまた大変で……。チームのメンバー全員でかかってもかなり準備には時間がかかりましたね。

次はミックス時に苦労した点です。
先述したように、私たちは卒業制作において同じ曲でサラウンドとステレオ両方のミックスを行うことになったため、収録時のセッティングは時間の都合上大幅にマイキングを変えることができないことからサラウンド合わせになり、演奏者が指揮者を取り囲む形のセッティングで進められました。

そのためステレオミックスをする際には5方向に分散したそれぞれの音源を2chに集約する作業が必要となりました。
いっせーので録っているので細かいエディットなどはもちろん出来ませんし、正直ミスや位相の問題などかなり無理矢理丸め込んだ部分もありました(笑)。それでもなんとか形になったのは、演奏者の皆さんが高校1、2年生とは思えないくらい素晴らしい演奏をしてくださったおかげです。

作品の聴き所・アピールポイントは?

サラウンドミックスの方では実際に指揮者を真ん中に配置したことを踏まえて、各楽器の役割を生かすバランス感やパンニングの面白さも味わえるように仕上げました。
実際に5.1chのサウンドをご試聴いただけないのは残念ですが、ステレオミックスの方でも指揮者視点で体感できる音の迫力が出せるように、あまりライブにしすぎぬようこだわったので、学生にしか出せないフレッシュなサウンドと合わせてお楽しみいただければと思います。

コンテスト参加ついて

受賞の感想をお願いします!

チームで力を合わせて頑張ってきたことが認められたようで、とても嬉しかったのを覚えています。その後の活動にもより一層自信を持って取り組めました。

参加のきっかけは?

当時お世話になっていた学科長からの声かけを機に、ここまで大きな企画を立てたのだからこの際自分たちの実力を試してみたい、コンテストへの参加で少しでも多くの方にこの企画を知っていただきたい、という思いからです。

制作時のエピソードはありますか?

当時私たちは専門学校の2年生だったわけですが、とにかく忙しかったの一言です。
メンバー内で作業を分担しているといっても卒業制作の本編にも追われていましたし、毎日メンバーの誰かしらがアルバイトだったり就職活動でインターンに行っていたり、もちろん学業も怠れませんし…… 。
そんな時間のない中でコンテストの締め切りもギリギリだったので、レコーディングが終わった次の日には休みの学校を朝から先生方に開けていただいて、サラウンドとステレオのバージョンどちらも同時進行でその日のみで仕上げることとなりました。校内のスタジオを部屋分けして、それぞれエディット作業・ミックス作業と分担しながらなんとか完成させましたが、もう意地でした(笑)。

参加してみて良かったことは?

これだけ大きな企画を実行するにあたって、とにかくたくさんの人と関わり、メールや実際に会ったりして繰り返し打ち合わせや下見を行ってきました。
私は全て自分でやりたくなってしまう性格でしたので、人を頼るということが苦手だったんです。しかしこの企画が始動してから、チームメイトを信頼して仕事を分担することの大切さを知ることができました。
また、コンテストに挑戦したことでチームの方向性が決まり、結束力も上がりました。チームというのは全員が向かうべき同じ目標を決めることでまとまってくるのだと認識できる良い機会でしたね。

音楽制作をしてみて、音楽の聴き方は変わりましたか?

その作品が作られた背景にはどんな人たちが携わって、どんなエピソードがあったのか考えるようになりました。ここはどうしてこうしたのかな、もしかしたら作者の意向とは違った理由があるのかも。といった違う観点からも見られるようになって面白いです。
音楽制作の様々な過程を経験できたことで、それがありとあらゆる音楽作品を深く知るためにも必要なことであったと今思います。

現役学生へコンテスト参加へのメッセージ・アドバイスをお願いします!

学生って、本当に忙しいですよね。下手したら社会人よりもやることが多いかもしれない。それでも、少しでも「挑戦したい」と言う気持ちがあるのなら、それを学校の先生方や周りの大人たちに伝えてみてください。
やりたいと思ったことが多少わがままでも、無茶なことでも聞いてもらえるのが学生だと思っています。むしろ学生の時にしか実現できないことはたくさんあると思うんです。やってみようとしたことで多くの挫折があるかもしれませんし、その企画が最終的には思い通りのものにならないかもしれない。けれどそのために行動したということが、いつかはあなたの成功体験になっているはずです。一回の挫折でめげちゃダメです。
決して周りの迷惑になるようなことをしてはいけませんが、あなた自身がブレずに”こうしたいんだ”という思いを強く持っていれば、きっと多くの人が協力してくれて素敵な作品ができますよ。皆さんの活動を心より応援しています。

JASジャーナル

大人数でのレコーディング風景、マイクセッティングや収録時のモニター環境など、作品についてさらに詳しく寄稿していただきました。合わせてご覧ください。


JASジャーナル
2019年1月号(Vol.59 No.1)
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