学生の制作する音楽録音作品コンテスト

第5回 2018年最優秀賞

for(art)est5.1ch 44.1kHz 24bit


※音源は2chに変換されたものです

名古屋芸術大学
山下 真澄さん

作品について

作品のコンセプトは?思いついたきっかけは?

卒業制作にあたる今作は、これまでの経験と技術を総合したものにしたいと考え、「生楽器と電子音、自然音が合わさり、サラウンドで音響効果にも拘った楽曲」をコンセプトに制作しました。
幼少期からピアノを続け、小学生になってからは金管バンド部、中学〜大学では吹奏楽に取り組んでいたことから、大学入学と同時に作曲を始めてからはピアノやオーケストラ等、生楽器を中心とした曲を多く制作していました。しかし大学生活の中、多様なジャンルの音楽に触れることで、生楽器だけでなく、シンセサイザー等の電子音や虫の鳴き声、車の走行音など、自然の中に溢れている音を使って曲を作ることにも興味を持ち、制作するようになりました。またステレオ楽曲のみならず、5.1chサラウンドでより空間を感じられる楽曲を作る技術も身につけ、このコンセプトを設定しました。

アイデアのきっかけは、大学4年生の夏に家族で青森県の奥入瀬渓流という所に行った際、渓流の中の「阿修羅の流れ」という場所で、水の中から道路標識が出ている景色を見たことです。ガイドさんの説明によると、1999年に奥入瀬渓流で大規模な地すべりが発生し、元々道路だった場所が水に沈んだ結果、現在の阿修羅の流れができ、標識だけが立ったままで水面から見えているとのことでした。
雄大な自然を感じる場所に人工物が混ざっているその景色は、私にとって強く印象に残るものでした。コンセプトとも合うことから、このような自然と人工物が融合した景色を表現する楽曲を作りたいと思い、制作を始めました。

制作時苦労した点・表現できた点・工夫した点は?

曲の構成に力を入れました。前半(〜2:30)は都会的な、電子音の溢れた風景をイメージしたもので、中盤は森の中のような自然溢れる場所にだんだんと人工物が流れ込んでくるイメージ、後半(4:16〜)からはそれらが融合するイメージで制作しています。全体を通して完全4度を積み上げ、音の高低を入れ替えた、機械的な雰囲気のモチーフを繰り返し使用していますが、後半パートではそのモチーフが暖かみのあるメロディー、ハーモニーになるよう制作しています。この構成によって、現代の技術が歴史ある雄大な自然の中に流れ込み、それらが融合して新しい景色を生み出す、というテーマを表現できたと思っています。
制作するにあたり、ピアノは自分で演奏、録音し、弦楽器は奏者に演奏を依頼し、録音させていただきました。最初に演奏していただいたとき、奏者の方々がとても表現豊かな演奏をされていて感動したのですが、曲の前半の人工的な部分で、そのイメージがあまり感じられないという問題点がありました。そこで、自分の曲のイメージと、場面ごとにどのような音色が欲しいかを奏者に伝えたところ、演奏の雰囲気が大きく変わり、理想の演奏を録音することができました。
ミックスをする際には、リバーブや使用するマイクを場面ごとに変えることで、さらに音色に変化をつけました。その結果、最初は人工的な雰囲気ですが、後半になるにつれて表現も豊かになり、景色が広がるような流れができたように思います。
全体のミックスの段階では、録音した演奏、電子音、自然音と、色々な種類の音があったため、うまく混ざらず苦労しましたが、サラウンドを効果的に使うことによって、様々な音を合わせて一つの空間を作ることができたと思います。

作品の聴き所・アピールポイントは?

この曲のタイトル「for(art)est」は、フォレストの中にアートが入っているものになっていて、自然(forest)の中に人工物(art)がある景色を想像できるような曲、という意味を込めています。曲の構成や、アレンジの変化、場面ごとの演奏の音の変化から、景色を想像しながら聴いていただけると嬉しいです。

コンテスト参加ついて

受賞の感想をお願いします!

最優秀賞を受賞させていただき、とても光栄でした。私は、大学でピアノ、作曲、録音、音響と、人より多くの分野を学んでおり、練習や制作などで多忙な学生生活ではあったのですが、学んできた全てを活かした作品で賞をいただけたことは大変嬉しいことでした。

参加のきっかけは?

大学の先生に勧められたことがきっかけです。それまでコンテストに応募した経験がなかったのですが、作曲・録音・ミックス等を総合的に評価していただけるとのことで興味を持ち、応募することになりました。

制作時のエピソードはありますか?

大学の友人や先生にたくさんの意見、アドバイスをいただきました。一人では、自分の表現が人に伝わるような内容になっているかどうかが分からないので、人に意見をもらえることはとても心強かったです。

参加してみて良かったことは?

この「学生の制作する音楽録音作品コンテスト」に応募するにあたって、自分の作品と改めて向き合い、良いところや問題点を再確認することができました。これからも自分の得意分野を伸ばしていき、審査員の方々にいただいたアドバイスをもとに、更に良い作品が制作できるよう頑張っていきたいと、改めて気を引き締めることができました。

音楽制作をしてみて、音楽の聴き方は変わりましたか?

メロディーだけでなく、アレンジやミックスに耳を傾けるようになりました。作曲もアレンジもミックスも、こうすれば良いという正解はなく、それぞれの曲に合わせた、伝えたいことを表現できる手法をとらなければならないと思います。そのため、様々なジャンルの曲を、良いところを参考にできるように意識して聴いています。

現役学生へコンテスト参加へのメッセージ・アドバイスをお願いします!

コンテストは、作品が人にどう捉えられるかを客観的に考え、どうすれば人に伝わる作品になるかを考えながら制作することのできる良い機会ですので、是非参加してみてください。
私が受賞した際、審査員の方に「解説資料の文字ベースでも詳しく伝えられるほどコンセプトとテーマがはっきりしていること、それを曲で伝えられることが評価できる」とコメントしていただいたことが心に残っています。それが全てとは言えませんが、音楽は自分の思い描く景色や、気持ち、純粋な音の心地よさなどの何かを、誰かに伝えるための技術と表現の集合体であると思います。ですので、自分が何を伝えたくて、どう表現したいのかを、今以上に深く考えてみてください。きっと聴く人に届く良い音楽になると思います。

JASジャーナル

使用機材やマイクセッティング、音像定位など、作品についてさらに詳しく寄稿していただきました。
合わせてご覧ください。


JASジャーナル
2019年1月号(Vol.59 No.1)
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