ヘッドホン・イヤホン製品の
「ハイレゾロゴ」とは?
ヘッドホン・イヤホンに求められる
「性能」とは?
ハイレゾロゴマーク付与のための
測定方法と判定基準

ハイレゾロゴマーク付与のための測定方法と判定基準

測定方法と判定方法を決める必要性

では、なぜ日本オーディオ協会が測定方法と判定基準を設けたのでしょうか。

これまで、ヘッドホン・イヤホン製品においては、図1(ヘッドホン・イヤホンに求められる「性能」とは?)に示すようなダミーヘッド(人型の録音器)を用いて周波数特性を測定し、製品性能を評価してきました。しかし、従来の測定方法では測定機器(信号発生器、アンプ、録音マイク)の性能的に20kHz以上の周波数帯域の測定が難しく、メーカー各社は様々な測定方法でハイレゾ帯域を測定する方法を検討・実施してきました。

そこで、ハイレゾロゴを製品に付与するためには、これまでのように各社が独自の方法で個別に製品を測定・評価するのではなく、日本オーディオ協会が採用する測定方法と協会が定める判定方法に基づいて、40kHzまでの音声信号が再生可能であることが確かな製品のみ、ロゴを付与することとしました。これにより、ハイレゾロゴはよりわかりやすく統一された性能の指標として機能しています。

測定方法

日本オーディオ協会では、加盟社間で同じ測定方法を用いて製品を評価することとし、20kHz以上のハイレゾ帯域で周波数特性を測定し、製品を評価することが可能な新しい測定方法を採用しています。

具体的には、①図3に示すように20kHz以上のハイレゾ帯域を測定可能にするように測定機器(信号発生器、アンプ、録音マイク)の性能を向上させ、②録音マイク用アンプとオーディオアナライザーの間に"自由音場補正フィルタ"と呼ばれる物を導入するという測定方法です。この方法は、2016年3月に一般社団法人 電子情報技術産業協会 (JEITA)から発表された測定方法を採用しています。以下では、測定方法の概要についてご説明します。


(図3)ハイレゾヘッドホン・イヤホン測定方法説明図

①マイク、アンプ、測定器の広帯域化(性能向上)
(1)これまでのマイク、アンプ、音響測定器の性能

まず前提として、ヘッドホン・イヤホンを測定するための設備として必要な、マイク、アンプ、音響測定器はそれぞれ性能に周波数の上限が有り、無限に高い周波数を感知、増幅、測定・分析出来るわけではありません。これまでは、CD音源に記録されていた周波数に合わせ、これらの性能は周波数上限20kHzで十分とされてきました。

(2)マイク、アンプ、音響測定器の広帯域化とは?

しかしながら、ハイレゾ帯域の測定のためには少なくとも40kHzまでの周波数を測定・分析する必要が出てきました。そこで、ハイレゾ帯域が測定出来るように周波数上限を40kHz以上に引き上げたより高性能なマイク、アンプ、音響測定器を用いることとしました。このように、より広い周波数の帯域まで測定可能にすることを広帯域化と呼びます。

②より判定しやすくするために--自由音場フィルターとは?

今回策定された測定方法では、新しく"自由音場フィルター"を使用することが求められています。これは一体どのような物で、何故これを入れる必要があったのでしょうか。

(1)スピーカーの測定方法

一般にスピーカーを測定する場合には、図4に示すように、無響室のような音の反射が無い空間において、信号発生器からアンプを通して増幅した音をスピーカーから出して、マイクをスピーカー正面に一定の距離を離して向け、その音をマイクで集音し、信号をマイクアンプで増幅して、音響測定器で増幅された信号を読み取って、測定・分析します。


(図4)スピーカー測定方法説明図

(2)スピーカーとヘッドホン・イヤホンの測定方法の違い

しかし、ヘッドホン・イヤホンを測定する場合には、スピーカーと同じ方法で測定することは困難です。なぜなら,ヘッドホン・イヤホンは人間が実際に装着することで本来の音響性能が発揮されるように設計されているので,スピーカーのように製品単独で測定しても製品の性能を正しく示すデータが得られないからです。

そこで,図5に示すように,ダミーヘッドを使います。この装置のマイクは人間の鼓膜に相当する位置にあり,音は耳や外耳道に相当する筒状の空間を通ってから集音されます。このため,集音される音は,ヘッドホン・イヤホンから再生された音に,さらにこの空間による音の変化が加わったものになります。

つまり,この装置で観測した特性は,ヘッドホン・イヤホンの特性と耳および外耳道の特性が合成されたものになります。ヘッドホン・イヤホンの特性だけを知るためには,測定したデータから耳および外耳道の特性を取り除く必要があります。このために次に説明する「自由音場補正フィルタ」を使います。


(図5)耳の外耳道イメージ図

(3)自由音場補正フィルター

ヘッドホン・イヤホンのハイレゾ対応測定においては、ダミーヘッドで測定した音データに自由音場補正フィルターを付加することで、ダミーヘッドの頭・胴・耳の音への影響(頭部伝達関数と呼ばれる)を無くし、ヘッドホン・イヤホンをあたかもスピーカーの測定方法と同じになるような測定・分析をしています。

なぜなら、周波数特性は、人間の頭・胴・耳の影響によって影響を受け、変化してしまうためです。そこで、これらの影響を打ち消すことが出来るような振るい分け装置、いわゆる"フィルター"が必要となります。フィルターのことを"自由音場補正フィルター"と呼びます。

この"自由音場補正フィルター"ですが、図6のようにハイレゾ帯域まで再生可能な基準となるスピーカーをダミーヘッドの正面に設置し、その基準スピーカーの周波数特性を測定することによって求めます。ここで求めた基準スピーカーの周波数特性をヘッドホン・イヤホンの周波数特性から引き算することによって、人間の耳が周波数特性に与える共振の影響を取り除くことが出来ます。

以上のような工夫をすることで、ヘッドホン・イヤホンにおける20kHz以上のハイレゾ帯域をより適切に評価することを可能としています。

判定基準

日本オーディオ協会の推奨ロゴを取得するためには上記の測定方法を用いた周波数特性結果をもとに、日本オーディオ協会が定めた判定基準を満たす必要があります。その判定基準に基づいて40kHz以上の音楽信号が再生可能であることが認められた場合に限り、製品にハイレゾロゴを付与することが認められます。


(図6)自由音場補正フィルターイメージ図